財産刑とは?罰金が払えない場合はどうなる?
- 2024年7月16日
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刑事事件の判決においては「財産刑」である「罰金」刑が大半となります。もうひとつの「財産刑」である「科料」は少数です。比較的軽い罪に対する刑罰ですが、原則として一括納付以外は認められず、納められない場合は刑務所での労役で支払うことになります。
受刑者の財産が奪われる「財産刑」
刑事事件を起こして逮捕されてしまい、起訴された後の裁判で有罪判決を受けた場合の刑罰は「生命刑」「自由刑」「罰金刑」の3つに分かれます。
日本において「生命刑」に該当する刑は「死刑」しかなく、人の生命を奪う刑罰となり、「極刑」や「処刑」といった婉曲的な表現で表されることもあります。
そして「自由刑」は罪を犯した者の身柄が拘束される刑罰で、具体的には「懲役」「禁錮」「拘留」となります。
「自由刑」は刑務所や拘置所などの刑事施設に罪を犯した者が収容され、移動や生活を大幅に制限する刑罰であり、自由が制限されるために「自由刑」と呼ばれます。
最後の「財産刑」は、有罪判決を言い渡された者が持っていた財産を奪われるものです。
「財産」というと家財道具が差し押さえられるようなイメージがありますが、代表的な財産刑は「罰金」あるいは「科料」となり、「没収」が付加されることもあります。
以上の刑罰については、刑法9条に定められているものです。
第九条 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
それでは、刑事事件では比較的軽い刑罰とされる「財産刑」について見ていきましょう。
刑法に規定されている「財産刑」
「財産刑」に含まれる2つの刑罰は、以下の通り刑法第15条、および第17条に定められています。
(罰金)
第十五条 罰金は、一万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、一万円未満に下げることができる。
(科料)
第十七条 科料は、千円以上一万円未満とする。
それぞれの定義や納付の方法などについては、以下で詳しく説明します。
「没収」を「財産刑」とする見方もある
「財産刑」とされるものに「没収」という刑罰もあり、上記の刑法第9条に定めがあるものです。
しかし「没収」は付加刑であり、単独の刑罰として下されることはありません。
具体的には、特別刑法のひとつである覚せい剤取締法違反で逮捕された場合、有罪の判決が下されれば、多くの場合は「懲役」刑など覚せい剤所持に対する刑罰が科されますが、その他に所持していた覚せい剤は「没収」されます。
これは刑罰ではなく行政処置だという見方もありますが、ここに「没収」が規定された刑法の条文を紹介しておきます。
第十九条 次に掲げる物は、没収することができる。
一 犯罪行為を組成した物
二 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
三 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
四 前号に掲げる物の対価として得た物
2 没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。
(追徴)
第十九条の二 前条第一項第三号又は第四号に掲げる物の全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴することができる。
(没収の制限)
第二十条 拘留又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ、没収を科することができない。ただし、第十九条第一項第一号に掲げる物の没収については、この限りでない。
「没収」だけではなく、「追徴」や「科料」についても定められていますので、確認しておくことをお勧めします。
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「財産刑」が科せられる犯罪は非常に幅広い
「財産刑」である「罰金」と「科料」がどういう罪を犯したら科されるのかは、刑法や特別刑法など、多くの法律に定められています。
そして、「生命刑」や「自由刑」と比べた場合には軽い罪の場合に科されることが多く、その範囲は非常に広くなっており、また「罰金」は人だけではなく法人に科されることがあるのも特徴的です。
例えば独占禁止法違反や金融商品取引法違反、また会社法における特別背任罪などの経済的な犯罪においては、法人に対して非常に高額な「罰金」が科される場合があります。
「罰金」は10,000円以上
「罰金」の金額は上記の刑法第15条に定められているように10,000円以上となり、減額する場合には10,000円未満に下げることができます。
しかし刑法の上では、「罰金」の上限は定められておらず、犯罪を規定した法律によって個々のケースで定められています。
例えば他人を怪我させるような行為で逮捕され、有罪になった場合は、「罰金」の最高額は50万円となります。
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
「科料」は1,000円以上10,000円未満
「科料」の金額は上記の刑法第17条に規定されているように、1,000円以上10,000円未満となります。
「科料」は比較的軽い罪に対する刑罰として科されるものですが、金額は少なくても前科が付くということは忘れないでいたいところです。
「科料」が規定されている刑法上の罪の代表的なものは、以下の通りです。
(公然わいせつ)
第百七十四条 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
(賭博)
第百八十五条 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
(過失傷害)
第二百九条 過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
(遺失物等横領)
第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
以上の他に、道路交通法違反、軽犯罪法違反にも「科料」が定められている罪が規定されており、やはり比較的軽い罪であることが分かります。
そして条文からも見られるように、日本の刑罰に1,000円未満の金銭を徴収する刑はありません。
この水準は歴史的に見れば徐々に引き上げられてきていますので、数十年後には刑法での見直しがある可能性があります。
「財産刑」では「罰金」が圧倒的に多い
2016年の検察統計「審級別確定裁判を受けた者の裁判の結果別人員」によると、同年の裁判結果総数が320,488人に対し、「生命刑」の「死刑」は7人、「自由刑」の「懲役」が51,839人、「禁錮」が3,193人、「拘留」が6人となっているのに対し、「財産刑」の「罰金」は263,099人と圧倒的に多くなっています。
「財産刑」のもうひとつの「科料」も1,962人と、「罰金」と比べれば少ないながらも、ある程度の数が記録としては残っています。
これらの「財産刑」は、判決の際に定められる期間内に、言い渡された金額を検察庁に納付する必要があります。
そして任意に納付しない場合には、受刑者の財産に対して強制執行が行われます。
それでも支払う資力がなかった場合には、次に示すように、働いて払う、ことになります。
「罰金」や「科料」が払えない場合は「労役」
「財産刑」の「罰金」や「科料」が支払えない受刑者が、現実的には相当人数います。
払えないからと開き直って支払いを拒むことはできず、「罰金」や「科料」を完納することができない場合は、「労役場留置」といって、「懲役」の判決を受けたわけではないのに、労役場に留め置かれ、金銭に値する労働をしなければなりません。
このことは一般的にはあまり知られていませんが、刑法第18条に規定されているものです。
第十八条 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
2 科料を完納することができない者は、一日以上三十日以下の期間、労役場に留置する。
3 罰金を併科した場合又は罰金と科料とを併科した場合における留置の期間は、三年を超えることができない。科料を併科した場合における留置の期間は、六十日を超えることができない。
4 罰金又は科料の言渡しをするときは、その言渡しとともに、罰金又は科料を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡さなければならない。
5 罰金については裁判が確定した後三十日以内、科料については裁判が確定した後十日以内は、本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない。
6 罰金又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置一日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に一日未満の端数を生じるときは、これを一日とする。)とする。
この際、労働を命じられるのは刑務所の施設で、「懲役」の受刑者と同じように作業をしなければなりません。
「労役場留置」の期間は裁判によって決められますが、多くの場合は1日の留置を5,000円相当と換算されており、「罰金」が20万円の場合は40日間となります。
「罰金」や「科料」の金額はどれくらい?
犯した罪の内容や裁判の結果によるため、判決で下される「罰金」や「科料」の金額を一概に示すことはできません。
しかしながら、総数と総額から平均値を出すことはできますので、ここに紹介しましょう。
2016年の検察統計「最高検、高検及び地検管内別罰金刑執行件数及び金額」によると、同会計年度に「罰金」刑が執行されたのは259,043件、納付総額は47,591,045,000円です。
非常に大きな金額ですが、平均すると1件あたり約184,000円となります。
同じく、「科料」に関しては1,881件で13,851,000円となっており、平均7,364円です。
この統計には、「罰金」刑が執行されなかった、いわゆる「労役場留置」処分になった件数も掲載されており、「罰金」では4,559件、「科料」でも15件と記されています。
「罰金」ならまだしも、10,000円未満の「科料」を納付することができないのは、一般的には考えにくいのですが、お金に窮して犯罪を起こしてしまうということは、このことだと考えさせられるデータです。
以上のように科された「財産刑」によって納付した金額は、国の雑収入として国庫に入ります。
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