逮捕後に写真撮影や指紋採取などをされるのはなぜ?
- 2024年7月16日
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- 刑事事件に関する基礎知識
- 刑事事件弁護士相談広場
逮捕後、取調べの前に行われる手続き
刑事事件の被疑者として逮捕されてしまったらどのような刑事手続きが待っているのか、本項では逮捕状を持って行われる一般的な逮捕の、その当日に想定されることに焦点を絞って紹介します。
逮捕は被疑者に対する刑事手続きのひとつで、被疑者に逮捕状を見せて拘束した時点から被疑者は自由を奪われます。まず、被疑者は自由に移動したり、外部への連絡をしたりすることができなくなります。具体的には逮捕後、被疑者は自分の行きたいところへ自由に行けなくなり、携帯電話やスマートフォンを使って誰かと連絡を取ることもできなくなるのです。
逮捕された被疑者が外部と連絡を取る方法は、実現するかどうかは定かではありませんが警察に頼んで逮捕の事実を連絡してもらうか、弁護士を呼んでもらって連絡を頼むしかありません。ただし、数日後に行われる裁判所による勾留質問の際には、一カ所だけに限られますが、確実に外部への連絡を依頼することが可能となります。
通常は事件が発生した所轄の警察署へ
逮捕された被疑者は、一般的には事件が発生した所轄の警察署へと連行されます。逮捕が被疑者の自宅で行われ、事件が遠方の旅行先や出張先で発生していた場合には、遠くまで護送されることになります。またインターネットなどを利用した犯罪では、被疑者が地方在住であっても、捜査本部が置かれる東京の警視庁に連行されることになります。
被疑者の護送はパトカーではなく、目立たないようにワンボックスの警察車両で行われることが多く、遠方の場合は電車や飛行機を使用する場合もあります。この場合、当然ながら予約を取って特別な車両やチャーター便に乗るわけではないので、なるべく人目から離れる場所にはされるようですが、一般客と一緒に移動することになるのです。
プライバシーには配慮してくれる
車両での連行では、先にも述べたように目立たないワンボックスカーとなり、乗り降りに際しても人目につかないように配慮がなされています。また電車の一般車両や飛行機に乗る場合でも、一般客と同じ入口ではなく、こっそりと特別な出入り口から乗り込むことが普通とされていますが、すべての駅やターミナルにこのような設備があるとは限らず、関心を持って見ればすぐに分かってしまう程度のものです。
また、原則としては事故が発生した所轄の警察署に連行されますが、被疑者が女性や未成年であった場合には、収容する施設がある最寄りの警察署となることがある一方で、所轄の警察署の留置場が満杯だという理由で、近隣の警察署に送られることもあるようです。逮捕の事実を知った家族や友人・知人にとって、どこの警察署に連行されていくのか、探し当てるのに苦労することもあるのです。
逮捕と聞いて一般的にイメージされるのは、被疑者の腕に手錠がかけられるシーンですが、これが移動の自由を制限するという象徴的な出来事となります。いくらプライバシーに配慮するといっても、よほどの事情がない限り、この手錠が外されることはありません。
写真撮影・指紋採取は強制
刑事事件の被疑者として逮捕され警察署に連行された後、テレビドラマや映画ではいきなり取調べの場面になりますが、その前に大事な手順があるということはあまり知られていません。
それは写真撮影と指紋採取で、これは拒否することができないものです。後述する科学的捜査は、特別な令状が必要となるため、一般的な事件によって逮捕された場合には拒否することが可能ですが、写真撮影と指紋採取は強制的に行われます。
これらの手続きが終わった後にようやく取調べとなりますが、どのような形で写真撮影と指紋採取が行われるのか紹介しておきましょう。
写真撮影は撮り直し不可?
警察に連行された後、たいていの場合は留置場に入れられる前に、被疑者の写真撮影が行われるのですが、名前や現住所などの情報だけでは個人を特定できないので、被疑者本人の写真を撮っておき、警察のデータとしえ保管されるものです。
昔はフィルムのカメラで撮っていたのですが、現在ではデジタルカメラを用いて、被疑者の正面と真横、そして左斜め前からの写真を撮影します。正面と真横は分かりますが、なぜ左斜め前からも撮るのかという理由は、それが人間の特徴が最も出やすいのだということです。
写真が撮影される場所は、フィルムのカメラで撮影していた頃の名残で、警察署の中に専用の撮影室があることが多く、そのまま使われているケースが多く、撮影は鑑識のような専門の職員がするのではなく、事件の担当捜査員が行います。
フィルムのカメラと違い、デジタルカメラは気軽に撮り直しができるため、捜査員が写真の写りが気に入らない場合は、何度か撮り直しをされる場合があります。しかし最終的にどういう写真がデータとして保存されるのか知りたい、写りが悪かったら撮り直して欲しいなどの要望は聞き入れられません。
被疑者自身は画像データを見られないのです。
指紋採取もデジタル化されている
写真の撮影室は警察署内の鑑識と呼ばれるエリアにあり、写真撮影が先なのか指紋採取が先なのかは、その時に他の被疑者が何人くらいいるかという混み具合で変わってきますので、どちらを先にするかは状況次第です。写真撮影とともに、被疑者の指紋採取が強制的に行われますが、インクで指が汚れるといった昔のイメージにあるようなフィンガープリントではなく、デジタル機器で行われます。
指紋採取というと、指や掌に黒いインクをベッタリとつけて、採取用紙に押印していましたが、1990年代後半からデジタルスキャナが導入されはじめ、現在では警察署内で指紋を採取する方法は、ほぼ100%デジタルデータの読み込みになっているようです。被疑者はスキャナに手をあて、鑑識係の捜査員が機器を操作してスキャンするだけですが、この作業はさすがに誰でも簡単にできることではないようで、事件の担当捜査員自らスキャナを操作することはありません。
読み取られるデータは、両手の指の指紋のほか、掌全体の掌紋(しょうもん)と小指から手首掛けての横側の側掌紋(そくしょうもん)になります。このスキャナによる指紋採取も一度では上手くいかない場合があり、採り直しを要求されることがあるのですが、昔の黒インクを使っていた時代と違い、手が汚れるわけではありませんので、ストレスは少ないでしょう。
以上のように、取調べに入る前に採取された写真や指紋のデータは警察のデータベースにほぼ永久に残ると言われています。しかも事件が不起訴で終わろうが、裁判で無罪になったとしても、警察は一度手に入れたデータを削除することはないと考えた方がいいでしょう。
万が一犯罪に手を出してしまった場合、指紋や写真データがあれば、すぐに個人が特定されてしまうため、一度でも逮捕歴があるとすぐに足が付くというのは、このためなのです。
科学的捜査を求められることもある
写真撮影と指紋採取のほか、個人を特定するため、あるいは犯罪事実を明らかにするために、科学的捜査への協力を求められることがあります。
DNA鑑定、声紋鑑定、強制採尿、ポリグラフ検査などが科学的捜査に該当しますが、これらはあくまでも任意の協力となり、もし科学的捜査を行うための令状がなければ、被疑者は拒否してよいのです。
無駄にプライバシー情報を警察に開示する必要はありませんので、令状なしの科学的捜査には応じないことをお勧めしますが、例えば以下に説明するようにDNA鑑定により無実が証明できることもありますので、弁護士と相談して対応を決める方がよいでしょう。
DNA鑑定とは?
DNA鑑定とは、遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列を比較することで、個人を識別し特定する捜査方法です。従来行われていた血液鑑定よりも正確に識別が可能となるため、証拠能力が認められていて、識別技術も進化しているため、精度の向上とともにDNA鑑定を求めるケースが増えてきています。
写真撮影と指紋採取が終わると、事件の担当捜査員は「じゃあ、DNAも採らせてよ」と、あたかもそれが逮捕手続きの一環であるかのように要求してくる場合があります。知識がなければ何の疑いもなく応じてしまうところですが、逮捕後の手続きで捜査当局側が強制的に可能とされているのは写真撮影と指紋採取だけです。
自分の個人情報を出したくなければ、「DNA採取は任意ですよね? 拒否します」と突っぱねても問題はなく、むしろ事件に関係のない場合は拒否するべきでしょう。ただし、自分の無実を晴らすためにDNA鑑定が決定的な証拠になるケースであれば、自主的にでもDNA鑑定を申し出るべきケースとなります。
本来ならば被疑者のDNAを強制的に採取する必要がある場合は「身体捜査令状」など別の令状が必要になることを知っておき、慎重に対応しましょう。
その他の科学的捜査には何がある?
科学的捜査としてはDNA鑑定が代表的なものですが、その他にも声紋鑑定、ポリグラフ検査、強制採尿などを捜査員が求めてくる場合があります。
声紋鑑定とは、犯人の声が録音で残っていた事件などにおいて、声紋を分析することで犯人の声と被疑者(被告人)の声が同一であるかどうかを調べるものです。声を録音されることを拒否するのは、完全黙秘を貫くしかありませんが、後の裁判で声紋鑑定がきちんとした証拠として採用されるかどうかが判断されるでしょう。
ポリグラフ検査とは、人に質問を行い、それに対する生理的な反応を分析するという、いわゆる、うそ発見器のようなものです。検査される人の呼吸や脈拍、血圧などを測定して結果を分析するのですが、これも証拠として採用されるかどうかは、裁判を待たなくてはなりません。
強制採尿については、覚せい剤を使用していたかどうかなど、薬物使用の疑いがある被疑者に対して行われるものです。容疑が覚せい剤取締法であっても、それだけで強制採尿を行うことはできず、「捜索差押許可状」という令状に基づき、医師がカテーテルなどを使って尿を採取するものです。これは覚せい剤取締法違反の被疑者が任意の採尿を拒否し続けた場合に行われるものですが、判例では令状があれば可能とされています。
密室である警察施設内で、自分を守れるのは自分だけとなります。たいていは弁護士とコンタクトを取る前に、任意の協力を求められるのが通例となっているため、逮捕から続く刑事手続きにおいて、何が強制的なもので拒否できないのか、何が任意で拒否できるのかは、事前に知っておくことが大切です。
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