器物損壊罪とは?未遂で逮捕されることはある?

器物損壊

器物損壊罪とは

そもそも器物損壊罪とはどのような罪なのか、確認しましょう。

器物損壊罪の条文

刑法
(器物損壊罪)
第261条 前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、または傷害した者は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料に処する。

「器物損壊」の具体的な内容

具体的に、どのようなケースにおいて器物損壊罪が成立するのか、要件を説明します。

器物損壊罪は、「他人の物」を「損壊」または「傷害」したときに成立します。

他人の物

他人の物とは、公文書、私文書、建造物、艦船「以外の」他人が所有している物です。公文書などの物については、別の犯罪が成立するので器物損壊罪の対象になりません。たとえば、お店に置いてある商品や他人の家に置いてある家具家電、友人から借りている物品など、すべて「他人の物」です。賃貸物件でドアを壊した場合にも、大家の所有権を害するので器物損壊罪が成立します。

また器物損壊罪の対象には「動物」も含まれます。そこで、他人の飼っているペットを傷つけたり殺したりした場合にも、器物損壊罪となります。ペットだけではなく、市町村などが保護している犬猫やペットショップで販売されているペット、動物園の動物を傷つけた場合も動物傷害罪となります。

自分の所有物については基本的に器物損壊罪が成立しませんが、差押えを受けている物や抵当権等の権利設定されている物を壊した場合には器物損壊罪となります。

損壊

損壊とは、わかりやすく言うと「壊す」ことですが、物理的に壊すだけではなく、「物の効用を失わせること」全般を意味します。たとえば壁に落書きをするのも「損壊」となりますし、食器に小便をかける行為や、他人のものを隠してしまうことも「損壊」と評価されます。他人の物を隠すとき、自分の物にしてしまったら窃盗罪や横領罪ですが、嫌がらせ目的で隠したり遠くに捨てたりした場合には器物損壊罪です。

傷害

器物損壊罪の条文をよく見ると「傷害」という言葉が含まれています。傷害とは、他人の動物を傷つけたことを前提とする文言です。器物損壊罪では、他人の動物も対象としており、その場合には「器物損壊罪」ではなく「動物傷害罪」と言います。傷つけた場合だけではなく、殺すことや病気にさせること、ペットをさらって隠すことなども「傷害」の1種と評価されます。

未遂犯がない

器物損壊罪には「未遂犯」がありません。そこで、他人の物を壊してやろうと思ったけれど、実際に壊す前に止められて目的を達成できなかった場合には処罰されません。

過失犯がない

他人の物を壊す気はなかったけれど、うっかり壊してしまうことがあります。そのような場合、器物損壊罪にはなりません。器物損壊罪には過失犯がないからです。高級食器店などでうっかり商品の食器を割ってしまったとしても、器物損壊罪で逮捕されるおそれはありません。ただしその場合でも民事賠償は必要なので、高額な弁償金を支払うことになるでしょう。

親告罪

器物損壊罪は「親告罪」です。親告罪とは、被害者が刑事告訴をしないと処罰されない犯罪です。そこで、誰かの物を壊したりペットを傷つけたりしても、被害を受けた本人が警察で刑事告訴しない限り、逮捕されることはありません。

また、親告罪は起訴時に告訴されている必要があるので、いったん告訴されても起訴前に取り下げてもらえたら、起訴される可能性はなくなります。ただし、いったん起訴されて刑事裁判になってしまったら、その後告訴を取り下げてもらっても裁判は終了しません。判決時に告訴が取り下げられていても、刑罰を適用されて前科がついてしまいます。

器物損壊罪の刑罰

器物損壊罪や動物傷害罪が成立した場合の刑罰は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料です。

懲役刑とは、刑務所などの刑事施設で身柄拘束をされて強制労働をされる刑罰です。最短期間は30日なので、器物損壊罪の場合、30日以上3年以内の懲役刑を科される可能性があります。

罰金は、1万円以上の金銭支払いの刑罰で、科料とは、1000円以上9999円までの金銭支払いの刑罰です。お金を支払う罪の場合、9999円までは科料、1万円以上になると罰金ということです。

【器物損壊の犯罪内容・刑罰まとめ】
罪名 器物損壊罪
適用される刑罰 3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは過料
成立の要件 他人の物を損壊する
他人の動物を傷つける
器物損壊の故意
親告罪 被害者による刑事告訴がないと、起訴されない

器物損壊罪の具体例

どのようなケースで器物損壊罪が成立するのか、具体例をみてみましょう。

  • 壁にスプレーで落書きをした
  • お店の商品をわざと壊した
  • 人の家に入り、置いてあるものを壊した
  • 他人の飼っている動物を傷つけた
  • 食器に小便をかけた
  • 他人の大切にしている物やペットを持ち去って隠した、捨てた

器物損壊罪の「現行犯逮捕」と「通常逮捕」

器物損壊罪や動物傷害罪は犯罪行為ですから、これらに該当する行為を行うと逮捕される可能性があります。器物損壊罪で逮捕されるパターンには、現行犯逮捕と後日の逮捕(通常逮捕)の2種類があるので、確認しましょう。

現行犯逮捕とは

現行犯逮捕とは、現に犯罪を犯している人を逮捕することです。たとえば、人の自転車のタイヤをパンクしているところを発見されて、その場で取り押さえられる場合などです。現行犯逮捕は民間人でもできるので、目撃者や被害者に取り押さえられて時点で逮捕が成立します。その後警察を呼ばれて警察署に連れて行かれ、留置場に入れられます。

通常逮捕とは

通常逮捕とは、犯行現場では逮捕されなかったけれども、後日に被害者が刑事告訴を行い、捜査が開始されて逮捕される場合です。器物損壊罪は親告罪なので、被害者が警察署にやってきて告訴状を提出しない限り、捜査は開始されませんし逮捕もされません。

通常逮捕できるのは、警察などの捜査機関のみです。通常は、警察が逮捕状を持って自宅や勤務先などを訪ねてきて、任意同行を求められたりその場で逮捕されたりして、警察に連れて行かれます。

器物損壊罪で逮捕された後の流れ

逮捕された後の流れ

器物損壊罪で逮捕されてしまったら、その後どのような流れで手続きが進んでいくのか、みてみましょう。

微罪処分で釈放されるか検察官へ送られる

器物損壊罪の場合、逮捕されても必ずしもそのまま身柄拘束が続くとは限りません。罪が軽微な場合、「微罪処分」として、解放してもらえる可能性もあります。微罪処分とは、犯罪が軽微で刑事責任を追及する必要性が低いときに、警察の判断で送検せずに被疑者を解放することです。

次のようなケースで微罪処分になりやすいです。

  • 被害額が小さい
  • 悪質ではない
  • 被害弁償をした
  • 被害者が宥恕している(許している)
  • 前科や余罪がない

微罪処分として解放されなかった場合には、逮捕後48時間以内に検察官の元に身柄を送られます。このことを「検察官送致」や「送検」と言います。

勾留される、あるいは在宅捜査になる

検察官の元に身柄を送られたら、検察官は引きつづき身柄拘束が必要かどうかを判断します。身柄拘束が必要な場合には、裁判所に勾留請求をします。裁判所が勾留を認めたら、被疑者はそのまま警察の留置場で身柄拘束され続けます。この場合の手続きを「身柄事件」と言います。

一方検察官が勾留は必要でないと判断した場合や裁判所が勾留請求を却下した場合には、被疑者の身柄は釈放されます。ただその場合でも、罪を許してもらえたわけではないので被疑者在宅のまま、捜査が続きます。この場合の手続きを「在宅事件」と言います。

起訴か不起訴か決まる

身柄事件になった場合、勾留期間は最大20日間です。原則的に10日ですが、検察官の判断でさらに10日延長できるからです。

勾留期間が満期になると、検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするか決定します。起訴されたら刑事裁判になりますし、不起訴になったら裁判にはならず、そのまま釈放してもらえます。

在宅事件になった場合には、勾留されないので捜査機関が時間をかけて捜査をします。捜査が終わるまでに数か月くらいかかることもあります。終了時に検察官が被疑者を呼び出して取り調べを行い、その後、検察官が起訴するか不起訴にするかを決定します。

略式裁判か通常裁判になる

器物損壊罪で起訴されたときの刑事裁判には、略式裁判と通常裁判の2種類の裁判があります。

略式裁判は、100万円以下の罰金刑が適用される場合で被疑者が認めているケースで採用される簡単な裁判です。被告人は裁判所に出廷する必要がなく、起訴状と罰金の納付書を受けとって、罰金を支払ったら、刑罰を終えたことになります。身柄事件の場合、起訴と同時に釈放されます。

通常裁判は、法廷で審理が開かれる原則的な裁判です。被害額が大きい場合や被害弁償できていない場合、悪質な場合、同種前科がある場合などには通常裁判になりやすいです。被疑者は毎回出廷して、最終的には裁判官によって刑罰を言い渡されます。身柄事件の場合、起訴後は「保釈」できるので、保釈保証金を支払えば身柄を解放してもらえます。

【器物損壊で身柄を解放してもらえるタイミング】
処分の名前 解放されるタイミング 刑事責任が発生するかどうか
微罪処分 逮捕後48時間以内 発生しない
在宅捜査 逮捕後72時間以内 後に裁判になれば発生する可能性が高い
不起訴処分 逮捕後23日以内 発生しない
保釈 刑事裁判が開始した後 発生する可能性が高い
【器物損壊による裁判まとめ】
略式裁判 通常裁判
出廷 必要 不要
条件 ・罰金100万円以下
・被疑者(被告人)が罪を認めている
・懲役刑が予定される
・被疑者が容疑を否認している
・同種前科がある
・被害弁償していない、被害額が高額、犯行態様が悪質
前科 不起訴処分を獲得しないと一生残る

器物損壊罪の量刑相場

器物損壊罪で逮捕されたとしても、前科もなく被害額も小さければ送検されずに微罪処分として釈放してもらえることもあります。送検されても、勾留されずに在宅捜査になるケースが多いですし不起訴になる例もあります。

起訴されると罰金刑と懲役刑が半々程度で、科料になることは少ないです。懲役刑の場合、6か月から2年程度になることが多く、1年以上2年未満になるケースが半数程度、6か月以上1年未満が40%弱となっています。また60%程度の事案で執行猶予がついています。

罰金刑の場合、10万円から30万円となることが多いです。43%が20万円代、38%が10万円代です。

器物損壊罪で逮捕されたとき、処分を軽くする方法

器物損壊罪で逮捕されたときには、どのようにすれば早期に身柄を釈放してもらえて、処分を軽くしてもらえるのでしょうか?

刑事事件で処分を軽くしてもらうには、情状を良くする必要があります。具体的には以下のようなことがポイントとなります。

被害者と示談する

まずは被害者との示談を成立させることが重要です。示談ができて被害弁償ができていたら情状がとても良くなって不起訴処分になる可能性が高まりますし、刑事裁判になっても刑を軽くしてもらえます。

また、器物損壊罪は親告罪なので、示談をして起訴前に告訴を取り下げてもらえたら起訴されずに済みます。

反省する

しっかり反省の態度を見せることも重要です。反省していれば、逃亡したり再犯に及んだりするおそれもないだろうと考えられるので早期釈放につながりやすいですし、刑罰も軽くしてもらいやすいです。

逃亡や証拠隠滅のおそれがないと理解してもらう

器物損壊罪で逮捕されても在宅事件になったら、3日以内に身柄を解放してもらえます。在宅事件にしてもらうためには、検察官が逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断する必要があります。

これまでまじめに生きてきたこと、家族による監督を期待できること、定職に就いていることなどをアピールして、在宅にしても問題がないことを理解してもらいましょう。

【器物損壊で逮捕後、身柄解放や刑罰を軽くしてもらう方法まとめ】

  • 早急に被害者と示談して刑事告訴を取り下げてもらう
  • 反省する
  • 逃亡、証拠隠滅のおそれがないと示す

器物損壊罪の示談金の相場

器物損壊罪で示談をするためには、どの程度の示談金を支払えば良いのでしょうか?示談金の相場を確認しましょう。

器物損壊罪の場合、被害品があるので被害額がはっきりします。そこで、被害品の時価を支払えば示談できるのが一般的です。時価なので、新品の価格ではありませんが、被害品が高額な場合には示談金はその分高額になります。

また、被害者が大切にしているペットを傷害した場合や被害者にとって思い入れのある物を壊してしまったりしたときには、時価の賠償では納得してもらえないことも多いです。その場合には、時価に慰謝料をプラスしないと示談が難しくなります。

【器物損壊の示談金の相場まとめ】

  • 基本的には被害品の時価
  • ペットや被害者にとって特別な物だった場合、慰謝料が加算されるケースがある
  • 被害品が高額な場合には示談金が高額になる

器物損壊罪で逮捕されたとき、弁護士に依頼するメリット

器物損壊罪で逮捕されたときには、弁護士に依頼すると以下のようなメリットがあります。

逮捕後すぐに接見に来てもらえる

逮捕後勾留されるまでの3日間は、家族であっても被疑者との面会が認められません。この間、被疑者は完全に1人で警察に閉じ込められることとなり、精神的に参ってしまうことが多いです。

弁護士であれば、逮捕直後から面会できるので、本人と会って家族の様子を伝えたり今後の手続きや対処方法をアドバイスしたりして、本人の気持ちを落ち着かせることができます。

被害者と示談をして刑事告訴を取り下げてもらえる

逮捕直後から弁護士がついたらすぐに被害者と示談交渉を開始して、早期に示談を成立させることができます。すると刑事告訴を取り下げてもらえるので、起訴される可能性がなくなり、前科がつくリスクも0になります。

検察官や裁判所に良い情状をアピールしてもらえる

弁護士がつくと、被疑者が初犯であること、普段は真面目に生きていること、悪質な犯行ではないこと、家族や勤務先による監督が期待できることなど、被疑者にとって良い事情をたくさん拾い出して検察官や裁判所にアピールできます。

このことにより、不起訴処分を獲得しやすくなりますし、刑事裁判になっても刑罰を軽くしてもらいやすいです。

器物損壊罪で逮捕されたら、弁護士に相談しよう!

器物損壊罪は、軽くみられることの多い犯罪ですが、実際には逮捕されることもあれば懲役刑になることもあります。逮捕されてしまったら、早く身柄を解放してもらうための対応が必要です。

弁護士に対応を依頼して早急に被害者との示談交渉を開始してもらい、刑事告訴を取り下げてもらえたら確実に釈放されて、前科もつきません。器物損壊罪で逮捕されたら、すぐに刑事事件に強い弁護士を探して依頼しましょう!

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