横領罪とは?業務上横領罪の示談金相場などについて解説
- 2024年7月2日
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横領とは
一般的に「横領」というと「会社のお金を使い込む」といったイメージを持たれている方が多いでしょう。ただし横領行為はそれだけではありません。まずは「横領」とはどういった行為を意味するのか、確認しましょう。
横領とは、「他人から預かっているものを自分のものにしてしまう」行為です。以下で詳しく成立要件をみていきます。
他人の物
預かっている物の所有者が「他人」である必要があります。他人には個人だけではなく会社などの「法人」も含まれます。
他人から保管を支持されていても、対象が「自分の所有物」であれば基本的には横領罪にはなりません。ただし公務所から保管を命じられている場合(差押えを受けている場合など)には対象が自分のものであっても横領罪となります。
物の種類は問わず、現金、預貯金、不動産その他価値のある財物ならどのようなものも横領罪の対象になります。
自分のものにしてしまう
横領罪が成立するには「自分のものにしてしまう意思(不法領得の意思)」が必要です。所有者にしかできないようなことをして自分のものにする意思が表れるような行動をしたら「横領」になります。
具体的には以下のような行為が横領行為となります。
- 人から預かっていた物を使ってしまう
- 人の物を勝手に売り払ってしまう
- 自分名義の預貯金口座に他人のお金を入金する、移し替える
- 他人の土地に抵当権を設定する
たとえば会社のお金の使い込みをしたケースでは「会社」という「他人」の「お金」という物を「使う」ことによって自分のものにしてしまうので、「横領」となります。
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3種類の横領罪と刑罰の内容
刑法では、横領罪には3種類の罪が規定されています。よく聞くのは「業務上横領罪」ですが、これは原則的な「単純横領罪」の罪を加重したものです。
また、これら以外に軽微な罪である「遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)」もあります。
それぞれが成立する場合と適用される刑罰の重さを確認していきましょう。
単純横領罪
単純横領罪は、まさしく「他人から預かっているものを自分のものにした」ときに成立する犯罪です。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
たとえば友人から借りているゲームソフトやDVDを返さず自分のものにしたり、人から預かっている金品を勝手に転売したりした場合に単純横領罪が成立します。
単純横領罪の刑罰は「5年以下の懲役刑」です。
業務上横領罪
業務上横領罪は「業務として」他人の物を預かっている際、勝手に自分のものにしてしまったときに成立する犯罪です。
業務として、というのは反復継続して物を預かっているケースをいい、必ずしも「仕事として」預かっている必要はありません。
テレビなどでよく目にする「横領事件」は、多くがこの業務上横領罪です。従業員が会社のお金を使い込んだり商品の横流しをしたりした場合には業務上横領罪が成立します。
業務上横領罪の刑罰は「10年以下の懲役刑」であり、刑の長期が単純横領罪の2倍に引き上げられています。
遺失物横領罪
遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)は、所有者の占有を離れた物を自分のものにしてしまう犯罪です。
刑法第254条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
一般的な横領とは異なり「他人から預かる」ケースではありません。落ちている財布を拾って自分のものにしてしまったときなどに成立します。委託関係がなく「相手の信頼を裏切る」側面がないので罪も非常に軽くなっています。
遺失物横領罪が成立するのは、放置自転車を勝手に乗り回していた場合、道に落ちていた財布や時計などのものを警察に届け出ずにもらってしまった場合などです。
なおベンチなどに置いてあった財布やカバンをとってしまういわゆる「置き引き」の場合、まだ所有者が近くにいたら「占有」が失われていない可能性があります。所有者による占有が失われていないものをとると遺失物横領罪ではなく窃盗罪(刑法235条)が成立します。
遺失物横領罪の刑罰は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料」です。科料とは、1万円未満(9999円まで)の金銭的な刑罰です。1万円以上になると罰金ですが9999円までであれば「科料」となります。
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横領罪の件数と逮捕・勾留される可能性について
実際に横領罪は年間にどのくらい起こっているのでしょうか?
検察統計によると、2017年に検察が受理した3つの横領罪の総数は11862件です。そのうち単純横領罪が426件、業務上横領罪が1342件、遺失物横領罪が10094件となっています。
横領罪全体を見ると、逮捕された件数は1308件であり全体の11.7%ほどです。ただし、ここには遺失物横領罪が多く含まれているので、業務上横領罪と単純横領罪に限ると逮捕率はより高くなります。
また逮捕後に勾留された件数は1163件であり、割合にすると88.9%です。横領罪で逮捕されると9割は引き続いて勾留されてしまうということです。
参考リンク:2017年検察統計 | 政府統計の総合窓口
業務上横領罪で逮捕されるパターン
実際に横領罪で逮捕されるのはどういったケースなのでしょうか?
ここでは特に問題になりやすい「業務上横領罪」となるパターンをご紹介します。
- 経理担当や営業の従業員が会社のお金を使い込む
- 営業の従業員が会社の商品を転売、横流しする
- 従業員が会社のお金を自分の口座に移し替える
- 組合のお金を預かっていた担当者が自分の口座へ入金してしまう
- 公務員が公金を自分の口座へ移し替える
- 弁護士や司法書士が後見業務で被後見人のお金を使い込む
動機はさまざまですが、投資やギャンブルに失敗してその穴埋めのために会社からお金を横領し続けるケースが散見されます。
当初は少額でもだんだんと横領額が増えてくることが多く、一回ずつの横領額は高額でなくても何年も繰り返していていくうちに横領額が数千万円にまで膨らむケースも少なくありません。
横領罪の量刑の相場
もしも横領罪で逮捕されたら、どの程度の刑罰が適用される可能性が高いのでしょうか?量刑の相場をみていきましょう。
業務上横領罪の場合
業務上横領罪は、反復継続して物を預かっている人が対象物を横領してしまうケースであり、信頼関係を裏切る分刑罰も重くなっています。また横領行為が繰り返されるため被害額も多額になりやすいです。
数百万円、数千万円分の横領をして被害弁償もできなければ、初犯でも実刑判決が下される可能性が高くなります。
一方、被害額が数十万円単位など低額で被害弁償もできた場合などには、執行猶予をつけてもらえる可能性が高くなります。
単純横領罪の場合
単純横領罪の場合にも被害額が多額で被害弁償できなければ量刑が重くなります。ただ多くの場合、業務上横領のケースほど被害額が大きくなりません。
物をそのまま返すか時価を弁償すれば解決しやすいでしょう。きちんと被害弁償できれば不起訴処分にしてもらうことも可能ですし、起訴されても執行猶予がつくケースが多数です。
遺失物横領罪の場合
遺失物横領罪は微罪です。そもそも逮捕されないケースも多いですし、悪質で逮捕されても横領した物を返せば不起訴にしてもらえる可能性が高くなっています。
起訴されたとしても、初犯であれば略式裁判となるでしょう。ただし前科があれば通常の刑事裁判を選択される可能性があります。
横領が発覚してから逮捕されるまでの流れ
会社でお金を横領して「業務上横領罪」が成立したら、どのような流れで逮捕されるのでしょうか?
業務上横領罪は「後日逮捕」される犯罪
逮捕には「現行犯逮捕」と「後日逮捕」があります。痴漢や万引きなどではその場で逮捕される「現行犯逮捕」が多いのですが、業務上横領罪の場合、現行犯逮捕はほとんどありません。横領は誰もいないところでこっそり行われるからです。
また横領罪はすぐには発覚せず、何度も繰り返しているうちに会社が「計算が合わない」ことに気づき、調査した上で被害申告するケースなどもよくあります。
実際に横領行為をしていた頃から1年以上が経ってから逮捕されることも珍しくないので「今バレていないから大丈夫」というわけにはいかない犯罪です。
会社に発覚して調査が行われる
業務上横領罪で逮捕されるときには、まずは会社に横領行為が発覚するところから始まります。2年、3年と着服を繰り返していたところ、ついに会社にバレた、などの事例です。
会社が従業員による着服を察知すると、実際にどのような横領の実態があったのか調査を開始します。また従業員に対しても「どのくらい着服したのか正直に白状し、着服したお金をすぐに返済するように」と求めます。
このとき従業員が真摯に謝罪して調査に協力し、横領したお金を返済して被害弁償をできたら、会社は被害届を提出せず刑事告訴もしないので、逮捕を避けられます。
会社から被害届を提出される、刑事告訴される
横領が発覚しても被害弁償できないままであれば、会社も従業員を許さず被害届を出したり刑事告訴をしたりします。すると警察が事件を受理して捜査を開始します。
ただしすぐに逮捕されるとは限らず、複雑な事件であれば捜査に相当な期間がかかるケースもあります。
逮捕される
捜査が進んで被疑者を逮捕できるだけの根拠資料がそろったら、警察が逮捕状をとって被疑者を通常逮捕(後日逮捕)します。逮捕されるときには、警察が早朝自宅にやってきて突然逮捕状を示され、そのまま警察署に連れて行かれるケースなどが多くなっています。
業務上横領で逮捕されるとき事前に逮捕の予告はなく、いつ逮捕に来られるかも分かりません。不安を抱えて生活したくなければ、できるだけ早期に被害者と示談を成立させて逮捕を防ぐことが重要です。
横領で被害申告されやすい会社とされにくい会社
従業員が横領行為をしても、すべての被害者が警察に被害申告するとは限りません。大企業、官公庁、中小企業によって対応が異なる傾向があります。
被害申告されやすい会社
株式上場している大企業や官公庁の場合、コンプライアンスなどの問題もあるので多くの場合、被害届を出されます。
被害申告されにくい会社
一方、非上場の中小企業の場合には、経営者の考え方によって大きく対応が分かれます。
「絶対に許さない」という態度で刑事告訴されるケースもありますが「告訴してもお金が返ってこないなら意味がない」と考えて告訴や被害届を見送る会社もあります。
傾向としては「刑事事件にするよりお金が返ってくる方が良い」と考える経営者が多いので、交渉次第で逮捕を避けられる可能性が充分にあります。
横領罪で逮捕された後の刑事事件の流れ
勾留される
横領罪で逮捕されると、その後48時間以内に検察官の元に身柄を送られます。そして24時間以内に「勾留決定」され、警察の留置場内で身柄を拘束され続けます。
横領事件ではいったん逮捕されると勾留される割合が9割弱なので、勾留されずに解放してもらえる可能性は低いと言えます。
勾留と取り調べ
勾留期間は最長20日間で、その間には警察官から取り調べを受けます。
起訴か不起訴か決定される
勾留期間が満了すると検察官が「起訴」するか「不起訴処分」にするかを決定します。
裁判で判決が下される
業務上横領罪の場合、懲役刑しかないので必ず「通常の刑事裁判」となり、法廷で裁判官に裁かれます。
被害額が数百万円以上で被害弁償もできていないケースなどでは実刑判決が出る可能性が高くなり、そうなったら何年もの間、実際に刑務所に行かねばなりません。
横領罪で逮捕されない方法
会社のお金を使い込むなどの横領行為をしてしまっとき、逮捕されないためにはどうしたら良いのでしょうか?
まずはすぐに横領行為をやめるべきです。そして会社に正直に話し、できる範囲で被害弁償を行いましょう。
会社によりますが、刑事事件にするよりは少しでもお金が返ってきた方が良いと考えるケースが多いので、示談を成立させられる可能性はあります。
逮捕前に示談が成立したら、会社から被害届を出されることはないので逮捕される可能性がなくなります。
被害者が大企業や官公庁の場合、示談が困難となるケースもありますが、そうであってもできるだけ被害弁償を行って誠意を見せるべきです。
横領罪で逮捕後、なるべく早く身柄を解放してもらう方法
横領罪で逮捕された後、なるべく早く身柄を解放してもらうにはどうしたら良いのでしょうか?
逮捕後もやはり重要なのは示談と被害弁償です。数百万円単位の多額のお金を横領したケースでも、速やかに返還したら刑事裁判で執行猶予をつけてもらえる可能性が充分にあります。
また検察官による処分決定前に被害弁償を行って示談を成立させ、被害者から嘆願書を提出してもらえたら不起訴にしてもらえる可能性も出てきます。
ただし横領罪で逮捕後起訴されるまでには最大23日間しかありません。その間に被害者との示談をまとめてお金を用意して払わなければならないので時間的に相当タイトといえます。早めに弁護士に依頼して対応を進めましょう。
横領罪の示談金の相場
横領罪で身柄を解放してもらうには「示談」「被害弁償」が重要と言いましたが、実際に示談金はどのくらい必要なのでしょうか?
横領罪の場合、「慰謝料」を払う必要はありません。純粋に「被害額」が損害賠償額となるので、その分を払う必要があります。
現金や預貯金の場合には額面通りの返済を要求されますし、商品横流しの場合には当時の時価を基準に判断することとなります。
横領罪で示談金を払えない場合の対処方法
お金を横領した人が、そのまま手元においていることは珍しいです。多くの場合、自分のために使い込んでしまっているでしょう。
手元にお金が残っていないときには被害弁償金を自分で工面しなければなりません。
被害額が数十万円レベルであれば何とかお金を用意できますが、数百万円、数千万円になるととても被害弁償のためのお金を用意できないでしょう。
示談金を払えない場合、示談を諦めるしかないのでしょうか?
手持ちのお金がなくても示談を進められる
お金がなくても、示談を進める方法はあります。今すぐに一括払いできなくても将来にわたって分割払いしていける可能性があるからです。
被害者側も1円も返ってこないよりは時間をかけても少しでも被害回復できた方が良いと考えるケースは珍しくありません。
ただし、被害額が3000万円なのに毎月1万円ずつの返済など、あまりに非現実的な提案をすると相手にメリットがないので「それなら刑事告訴した方が良い」と思われてしまいます。
可能な限り多額の支払いをする条件を提示して相手にメリットを感じさせ、合意してもらえるよう務めましょう。
横領で逮捕・起訴されたくないならすぐに弁護士に相談を!
横領罪は決して軽い罪ではありません。業務上横領で逮捕されたらいきなり実刑判決が出るケースも珍しくないのです。
逮捕や起訴、実刑判決を避けるためには被害者と示談を成立させる必要がありますが、そのためには弁護士によるサポートが必要です。
弁護士であれば、被害者にうまく条件提示を行い、示談に応じさせるよう導いてくれますし、万一逮捕・起訴されても処分を軽くしてもらえるよう弁護活動を展開してくれます。
横領で逮捕・起訴されたくない場合には、できるだけ早めに刑事弁護に力を入れている弁護士に相談しましょう。
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