即決裁判とは?初公判で判決が下る、裁判効率化のための制度

即決裁判

裁判の公判は通常2回以上行われる

一般的な刑事裁判では、初公判において最初の人定質問が行われ、多くの証拠を審理する証人尋問などの証拠調べが数回の公判で行われるというイメージがあります。

そして最終的には検察側の論告求刑と弁護側の最終弁論、そして被告人本人が自由に意見を述べる最終陳述が終わると弁論の終結となり、次は裁判官が被告人の無罪、あるいは有罪を言い渡し量刑が決められる判決が行われます。

以上のようなやり取りを済ませるために初公判から何度も公判が開かれ、判決が下されるまでたどり着くには1年以上必要だと思っている人も少なくはないでしょう。

否認裁判とは違い、量刑裁判はすぐに終了

確かに、被告人が起訴事実を完全に否認して無罪を主張しているような否認裁判の場合は、1年を超える期間にわたり繰り返し公判が続けられることもあります。しかし被告人が最初から罪を認めていて、刑罰の重さだけを決める量刑裁判において、比較的軽微な事件の裁判の場合は、時間をかけて証拠調べをするほど証人がいないのが実情です。

冒頭陳述も事件そのものが単純であればすぐに終わってしまうため、最初の人定質問から最後の被告人の最終陳述まで初公判の1回だけで終わってしまうのです。この時の証拠調べは、被告人の情状証人が1人呼ばれる程度となりますので、公判時間も1時間程度ですが、このような裁判でも判決の言い渡しは、1週間から1カ月後に開かれる次回の公判に持ち越されることが普通です。

一方で、特定の条件に適った事件の裁判で、被告人が認めればたった1回の公判で終了する即決裁判というものがあります。本項では、即決裁判手続きについて紹介します。

1回の公判で終わる即決裁判手続きとは?

刑事事件の裁判では、裁判官が被告人と検察の双方から提出された証拠を十分に審理した後、慎重に判決を下すという考え方がありますから、どのような単純で軽微な事件であっても、初公判で結審まで進むことはあっても、判決は次回の公判で下されるのが常でした。

しかし2006年に行われた刑事訴訟法の大幅改正で、即決裁判手続きという、1回の公判で判決まで行う特殊な裁判が取り入れられました。即決裁判は、最初の公判で人定質問から最後の被告人の最終陳述まで一気に進められます。そして裁判官はいったん退廷し、別室で5~10分ほど審理した後、法廷に戻ってきて即座に判決を下すというものです。

この裁判官が一度退廷するというプロセスは、裁判官が別室で十分に審理するために設けられていますが、実際の判決内容は公判前の書類検討によりあらかじめ準備されている可能性が高いとも言えます。

即決裁判には条件がある

たった1回の公判で判決まで出してしまう即決裁判は、主に刑事事件の裁判の迅速化や効率アップを目的として導入された制度ですが、どのような事件でも即決裁判を行えるわけではありません。即決裁判が行える事件の条件は、刑事訴訟法第350条の16などに規定されています。

刑事訴訟法

第三百五十条の十六 検察官は、公訴を提起しようとする事件について、事案が明白であり、かつ、軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し、相当と認めるときは、公訴の提起と同時に、書面により即決裁判手続の申立てをすることができる。ただし、死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件については、この限りでない。
2 前項の申立ては、即決裁判手続によることについての被疑者の同意がなければ、これをすることができない。
3 検察官は、被疑者に対し、前項の同意をするかどうかの確認を求めるときは、これを書面でしなければならない。この場合において、検察官は、被疑者に対し、即決裁判手続を理解させるために必要な事項(被疑者に弁護人がないときは、次条の規定により弁護人を選任することができる旨を含む。)を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げなければならない。
4 被疑者に弁護人がある場合には、第一項の申立ては、被疑者が第二項の同意をするほか、弁護人が即決裁判手続によることについて同意をし又はその意見を留保しているときに限り、これをすることができる。

(以上、抜粋)

即決裁判を行う条件の具体例

即決裁判を行うことができる条件について、具体例を紹介します。まず単純な事件であること、という条件がありますが、これはたとえば起訴された罪状がひとつであった場合や、わかり易い犯罪であることです。

詐欺罪である食い逃げを1回行って逮捕された場合などで、他の犯罪に関係性がない時には軽微な事件とされますが、この程度の犯罪だと通常は略式処分で公開裁判にまで発展しないことが一般的です。しかしそれでも、過去に同じような罪で捕まった前科がある、または検事調べの時の態度が悪くて反省の念が見られない時など、個々のさまざまな事情で起訴されてしまったということが考えられます。

次に、予想される刑罰が軽微であることという条件が挙げられます。起訴された罪に対して下される刑罰が、死刑、無期懲役、懲役または禁固1年を超えるものでないということが条件となり、つまり有罪だった場合、その量刑が科料や罰金、あるいは1年以下の拘留、禁錮、懲役という軽い刑罰しか科せられない犯罪に限って、即決裁判が行えるというものです。

そしてさらに、被告人が有罪を認めていること、という条件があります。最初から被告人が罪を認めていて、刑罰の軽重だけを決める量刑裁判に限って即決裁判が認められるということになります。これは考えてみれば当然のことなのですが、もし被告人が起訴事実を否認しているのであれば、犯罪事実を立証しようとする検察側も、被告人の無罪を主張する弁護側も、お互いに多くの証拠を提出します。

そうなれば1回の公判で結審できるわけはないので、裁判で争点がある限り即決裁判は行えず、あくまでも被告人が最初から罪を認めており、量刑を決めるだけの裁判である場合に即決裁判を使えるのです。そして最後の条件は、被告人本人が即決裁判で裁かれることに同意していることです。

公開裁判を行わず書類だけで判決を出す略式処分も同様ですが、たった1回の公開裁判で判決を決める即決裁判も、あらかじめ被告人が即決裁判で裁かれることに同意しなければなりません。

即決裁判のメリットとデメリット

通常、即決裁判が行われるためには、起訴された時点で検察側から即決裁判をするか否かという打診をする必要があります。起訴から初公判までは普通2カ月ほどの期間がありますので、被告人は即決裁判を希望するのであれば、その旨を検察もしくは裁判所に伝え、さらに被告人の弁護人も即決裁判に同意すれば、裁判は1回の公判における判決で決定する即決裁判で行われます。

即決裁判手続きが導入された最大の目的は、裁判所の効率化です。穿った見方をすれば、小さな事件の裁判に時間を割くことを止め、速やかに1回の審理で片付けて、もっと重大な事件の審理に集中できるようにしたいという意向から生まれた制度とも言えます。

しかし、裁判所や検察にとっては小さな事件であったとしても、裁かれる方にとっては一生を左右する問題で、即決裁判にそれなりのメリットがなければ同意はできません。

即決裁判の受け入れは、慎重な判断が必要

被告人の立場から見た即決裁判の最も大きなメリットは、裁判によって拘束される期間が大幅に減ることです。刑事事件の被疑者として逮捕され、勾留が決定された場合、起訴された後も起訴勾留という身柄の拘束が続き、裁判中も刑事施設に勾留され続けるケースがあります。

その場合には、裁判が1日でも早く結審して、狙い通り執行猶予付きの判決を得ることができれば、それだけ早く身柄の拘束が解かれることになるのです。また下された判決が執行猶予なしの実刑判決であったとしても、即決裁判が利用できる犯罪では1年を超える実刑判決にはならないため、少しでも早い社会復帰を目指すのであれば、裁判の期間は短いにこしたことはないわけです。

起訴された後に保釈が認められ、勾留を解かれて一般社会に戻っていた場合でも、公判は平日の昼間に開かれますから、逮捕されたことで職を失ってしまった人にとって、公判のたびに裁判所まで足を運ぶのは苦痛です。それがただ1回出廷するだけで裁判が終わるのであれば、結構なメリットだと言えるでしょう。

上告ができないというデメリット

但し、即決裁判で判決を下された事件は控訴や上告といった上告ができないというデメリットがあります。即決裁判で下される刑罰は、最も重いケースでも1年以下の懲役または禁錮となるため、最初から罪を認めている量刑裁判で、判決に不服があって上訴することはあまり考えられません。

即決裁判の受け入れは弁護士に相談を

刑事訴訟法第350条の17に次のように規定されているように、即決裁判を受け入れる場合、弁護人の選任が必須とされています。

刑事訴訟法

第三百五十条の十七 前条第三項の確認を求められた被疑者が即決裁判手続によることについて同意をするかどうかを明らかにしようとする場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない。ただし、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合は、この限りでない。

被疑者の段階で弁護人を選任していない場合、裁判官は国選弁護人を付けなければならないと定められていますので、いずれにしても弁護士と相談することになります。即決裁判を受け入れるということは、公開裁判において十分な審理を受ける権利を放棄することにもなりますから、刑事事件に強い弁護士を選任して、受け入れの可否をしっかりと相談するべきだと言えます。

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