背任罪とは?成立するケースと特別背任罪・横領罪との違い
- 2025年1月20日
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「背任罪」という罪はそれほど聞く機会もなく、その犯罪の内容は、あまり知られていないかもしれません。
「詐欺」や「横領」ならば、一般にも聞き馴染みのある罪名かと思います。これらの罪はニュースなどで聞く機会も比較的多いですし、詐欺に関してはそもそもの発生数も多く、事件として扱われる件数も多いです。
しかし、背任罪は詐欺や横領、特に横領とは性質の近い罪であり、身近に起こり得る犯罪でもあるのです。ここでは、背任罪とは何か、そして詐欺や横領とはどのように違うのか、解説していきます。
背任罪とは
背任罪とは、信頼関係のもと仕事を請け負っている者が、自分や第三者の利益などの目的のため、相手方を裏切り、損害を発生させることに対して定められた罪です。
背任罪については、その構成要件として、刑法の条文上に、どのような者がどのような目的で、どのような行為をしたら背任罪に該当するのかが定められています。一つ一つ見ていきましょう。
背任罪は引き受けた仕事を利益目的で裏切り、結果、相手方に損害を与えたことへの罪
まず、背任罪の犯人になる可能性がある人は「他者のために仕事をしている者」に限られます。この場合にしか背任罪の対象になり得ません。
なお、背任罪の条文で言う仕事とは、広い意味であり、会社で勤務し働いているような場面に限りません。何かを任されているような状況であれば該当し得ます。もちろん、会社員として勤めている、もしくは委任・請負・寄託の関係にあるような状況も含みますが、要は何かしらの信頼関係のもと事務処理等を任せられている場合を指しています。
逆に言えば、もともと信頼関係に無かったものであれば背任罪の主体とはなりません。
そして、背任罪を成立させるには、この信頼に背くような行為を行わなければなりません。つまりは裏切り行為です。仕事を任されていたにもかかわらず、その仕事をしない。もしくは特定の財物の保管をお願いされていたにもかかわらず、自分のものとして持ち出してしまうようなケースです。
信頼関係がある中での裏切り行為+相手方の損害で背任罪は成立
ただし、裏切るような行為のすべてが背任罪になるわけではありません。他に背任罪成立のために必要なのは、「自分や誰か他人の利益を得る目的」が存在していることです。
つまり、ただ単に故意に信用に背く行為をしただけでなく、その行為の目的として、自分の利益を求めていることが必要とされます。また、自分を含む誰かの利益を求めていなかったとしても、相手方へ加害しようとする目的があれば成立します。
その結果、実際に相手方に損害が与えられたという結果が生じることで背任罪の構成要件を満たし、背任罪が成立することになります。ここでの結果とは、お金が減ったなどという直接的な損失に加え、手に入るはずであった利益・機会を失うことも含みます。そのため、信頼関係に背いて、利益を得ることのできるチャンスを妨害することによっても背任罪が成立することになります。
背任罪が成立するケース
背任罪が成立する例を見てみましょう。
県職員の行為が背任罪に該当したケース
一つは県職員の行為が背任罪に該当したケースです。
県職員が融資の場面において、相手方の偽装に気が付いていながらも多額の貸し付けをしたというものです。これにより県に大きな損害が生じました。相手方の見せ金など、偽装行為に気が付かなかったなどとして否定をしていたものの、最終的に裁判では背任罪の成立が認められています。事務を処理する者がその任務に背く行為をしたため背任罪に該当したのです。その結果、被告人は実刑に処されています。
(事件番号 平成15(う)188 裁判年月日 平成17年7月12日 高松高等裁判所)
会社経営者が架空取引で他社に損害を与えたケース
会社の経営者がした架空の取引が背任罪の構成要件を満たした例もあります。被告人はある会社の代表者で、被害を受けたのは他社です。相手方の会社に損害を与えるため、その他社の従業員とグルになって架空の取引を行ったというものです。その結果、数百万円の損害が生じています。裁判の結果、執行猶予は付与されているものの、被害額が大きいことなどを理由に懲役刑が科されています。
(事件番号 平成29(わ)1913 裁判年月日 平成30年9月26日 名古屋地方裁判所 )
加害や利益獲得の意図のない「失敗」による損害は背任罪には当たらない
なお、会社のためにその事務を処理する者である取締役が、失敗を犯して会社に損失を与えてしまったとしても、損害を与える意図や利益を図る目的がなければ背任罪は成立しません。会社のためを思ってした行為がたまたま失敗し、損失が生じたとしてもそのことによって背任罪が成立することはないのです。
先ほどの例では、加害の意図や利益を図る目的があったために背任罪が成立しています。
背任罪を犯した場合の罰則
背任罪を犯した場合、「5年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」に処される可能性があります。
行為の悪質さ、結果の大きさ、常習性や計画性などを総合的に捉えて量刑が判断されますが、積極的な関与がない場合や余罪のない場合、比較的被害が小さく、初犯、それほど悪質と評価されなければ執行猶予が付くことも十分考えられますし、そもそも不起訴処分で済む可能性もあります。
しかし、計画性を持って悪質な背任行為を働き、相手方に大きな損害を与えたのであれば実刑判決が下されることもあり得るでしょう。
背任罪に対する量刑はケースバイケース!
自分が背任罪にあたるような行為をしてしまった場合、具体的にどのような刑が予想されるのか、この点は個別具体的に考える必要があります。
また、背任罪などの刑事事件では対応のスピードがとても重要になりますので、できる限り早いタイミングで弁護士に相談してみるといいでしょう。
背任罪と似た罪との違い
冒頭でも述べたように、背任罪には、似た性質の犯罪類型があります。たとえば、特別背任罪や横領罪などが代表例です。
そこで、ここでは背任罪とこれらとの違いに着目して解説していきます。また、比較的身近な犯罪である詐欺罪との違いについても言及していきます。
特別背任罪との違い
まず、「特別背任罪」ですが、こちらは名前の通り背任罪に対する特別類型に位置します。つまり背任罪が成立する状況を満たしたうえで、さらに特別なシチュエーションに限って成立する罪であり、行為を行う主体が株式会社の役員等でなければなりません。
会社役員などが立場を利用して会社への背任行為を行った場合に適用される罪
信頼を受けて仕事をするはずの役員等が、損失を与える目的あるいは自分や他者の利益を図る目的で裏切り行為を働く場合に成立することになります。
具体的には、会社の「発起人」や「取締役」、「支配人」などがその立場に基づく背任行為をしたときに限るという違いがあります。
特別背任罪が成立する場合は、たとえば会社の承認を得ないまま取締役が支払い能力の有無が不明な相手と取引を行い、多額の資金を貸し付けるような場合などがあります。
取締役などは会社と委任契約のもとその職務を果たす義務がありますが、会社に大きな損失を与えるかもしれないと分かりつつ、危険な取引を行い、実際に損害を与えてしまうと特別背任罪に問われる可能性が出てしまいます。
また、粉飾決算をするために不正な経費を増し、会社に損失を与えるような場合などが考えられます。これらの状況においては、業務上横領罪が成立するおそれもありますので注意が必要です。
背任罪より罰則も重い特別背任罪
なお、特別背任罪だと罰則にも違いがあります。
懲役は「10年以下」、罰金も「1000万円以下」、と大幅に重く設定されています。個人が背任行為をする場合に比べて被害の結果が大きくなる傾向にあることが関係しています。
特別背任罪 | 背任罪 | |
---|---|---|
懲役 | 10年以下 | 5年以下 |
罰金 | 1,000万円以下 | 50万円以下 |
横領罪との違い
次に、「横領罪」を見ていきます。こちらは、他人から預かっている物を、自分や第三者の利益のために処分してしまうことを言います。
最も大きな違いは、特定の「物」が登場するかどうかということです。
背任罪では「物」に限定されず、構成要件を満たすのであれば広く成立し得るものでした。
しかし、横領罪は自分が占有している「物」を横取りした場合に限られます。また占有していた物を自分の物にしようとする意志も必要です。背任罪ではこの意思を有していることが条件とされませんが、横領罪では成立のために求められます。
なお、横領罪に関しては罰則が「5年以下の懲役」とされており、罰金刑が規定されていないところも大きな違いであると言えるでしょう。
横領罪 | 背任罪 | |
---|---|---|
懲役 | 5年以下 | 5年以下 |
罰金 | 規定なし | 50万円以下 |
詐欺罪との違い
最後に、詐欺罪に関しても背任罪との違いを簡単に紹介します。詐欺とは、人を欺き、その相手方を錯誤させ、財産の処分をさせることを言います。
「裏切る行為」と言ってしまうと背任罪とも似た罪かのように思えますが、こちらは「欺く行為」があるという点で大きく性質が異なります。そしてその上で財物の交付をさせなければなりません。
つまり、単に約束を守らずに損失を与えただけではこちらは成立しませんし、相手方に勘違いなど、錯誤に陥らせなければならないのです。
また、罰則規定にも違いがあります。
刑法で定められているように、詐欺を働くと、最大10年の懲役に処される可能性があります。罰金が予定されていませんし、懲役の期間も長いという違いがあります。
詐欺罪 | 背任罪 | |
---|---|---|
懲役 | 最大10年 | 5年以下 |
罰金 | 規定なし | 50万円以下 |
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背任罪を疑われてからの流れ
被害者からの被害届や告訴状の提出で捜査がスタート
背任罪を疑われた場合、その被害者から警察に被害届が出される、もしくは告訴状の提出をきっかけに捜査が開始されます。
警察などの捜査機関は被疑者や告訴をした者、その他関係者などに取調べを行い、調査をします。事実関係の確認や証拠の収集などを行い、検察が起訴をするかどうかの判断をすることになります。
被害者の処罰感情次第で起訴されるリスクは高まる
起訴をされなければ罪に問われることはなくなり刑を科されることもなくなります。しかし生じた結果が大きい場合や行為が悪質なケース、被害者の処罰感情が強い場合などには起訴される確率が高くなります。
起訴されると刑事裁判にかけられ、有罪無罪の判断および、有罪であればその量刑を裁判官が判断することになります。
起訴されなかった場合も、当事者間でのトラブルは残る
民事訴訟~損害賠償に発展する可能性も
なお、起訴をされなかった場合でも国家との関係において刑事罰を科されることがなくなるだけであって、当事者間のトラブルまですべて解決されるわけではありません。
そのため相手方から民事訴訟を起こされることは十分考えられます。
そこで損害賠償をされると結果的に罰金刑の上限である50万円以上の支払を求められることになるかもしれません。
背任罪による逮捕が不安ならすぐ弁護士に相談
以上の事を踏まえ、罪に問われた方が最初に取るべき対応としては「弁護士への相談」が挙げられます。
- 起訴されないようにすること
- 起訴されたときに無罪あるいは軽い刑にしてもらうこと
- 被害者との民事訴訟への対策
など、弁護士に相談することで、背任罪の疑いに対して、全般的なサポートを期待できます。
また、捜査段階においては逮捕されることもあり得ます。逮捕されてしまうと数日間は自由に生活ができなくなりますし、その後勾留されてしまうと最大20日間も拘置所等で身柄を拘束されてしまいます。
精神的な負担も非常に大きくなりますし、刑事・民事ともに対策をすることも難しくなってしまいます。
弁護士に依頼をしておけばこのような状況でもできるだけ有利に終結させるため動いてくれますし、身体拘束もされないよう働きかけてくれます。拘束されず、在宅事件として進められるかどうかは事件の態様によって変わりますので弁護士がいても確実に逮捕されないということではありませんが、不利な状況に置かれる可能性を低くすることはできるでしょう。
背任罪では被害者との示談交渉が非常に重要
また、背任罪のように被害者が存在する事件では刑事・民事の両方において示談交渉が重要とされます。
加害者が被害者と直接交渉して成立させるのは心情的にも難しいため、専門家である弁護士に代わりに交渉してもらうのがベストです。
弁護士に相談することでさまざまな恩恵が受けられますので、背任罪の疑いをかけられたときには、まず「刑事事件に強い弁護士」に相談し、背任罪の疑いに対してどのように対応していくべきかアドバイスを受けるようにしましょう。
逮捕後72時間で自由に面会できるのは弁護士だけ!
ご自身・ご家族やご友人が
逮捕されてしまったら、今すぐ弁護士にご相談を!
このようなことでお困りですか?
- 身に覚えがないのに警察に呼ばれてしまった
- 逮捕されたことで解雇されたり、退学になるのは困る
- 今すぐ釈放してほしい
- 被害者の方と早期に示談したい
- 事件の前科や逮捕歴を残したくない
- なんとかして不起訴の可能性を少しでも上げたい
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