当番弁護士とは?刑事事件で当番弁護士を呼ぶまでの流れ

弁護士との接見

刑事事件の当番弁護士とは

当番弁護士の基本

まずは、当番弁護士とはどのような制度か、ご説明します。

当番弁護士とは、被疑者が逮捕されたときに1回だけ、無料で弁護士に接見に来てもらえる制度です。被疑者は、突然警察に逮捕されて、どのように対応したら良いかわからなくなり、慣れない環境で混乱状態に陥ることが多いです。そのような不安定な状態では十分な防御活動もできないので、弁護士による援助を受けさせるために当番弁護士制度が作られています。

犯罪の種類による制限はない

当番弁護士を呼べるのは、あらゆる種類の犯罪で逮捕された人です。犯罪の軽重による制限はなく、微罪であっても当番弁護士を呼べます。また、少年事件にも適用されるので、未成年が警察に逮捕されたときにも当番弁護士を派遣してもらうことができます。

逮捕後勾留前に接見できる

逮捕後交流前の48時間は、たとえ家族であっても面会できないことがほとんどです。しかし、この期間に今後の流れや対処方法について正しく理解しておくことが、将来の不利益を防ぐために非常に重要です。逮捕直後であっても、弁護士であれば被疑者と接見することができますし、捜査官の立会いなしに自由に会話することができます。時間制限もありません。

そこで、逮捕されたときには、「まずは当番弁護士を呼ぶこと」をお勧めします。

接見禁止と当番弁護士

ところで、警察に逮捕されたとき「接見禁止」という処分をつけられることがあります。接見禁止とは、弁護人以外のすべての人との接触を禁じる処分です。たとえば、共犯のいる事件など、接見によって証拠隠滅や証人威迫などの問題が起こりそうな事案で接見禁止をつけられることが多いです。接見禁止をつけられると、勾留後も家族と面会することはできませんし、手紙のやり取りも不可能となります。

そういったケースでも、当番弁護士なら逮捕後の早い段階で来てもらうことができますし、さまざまなアドバイスを受けられるので、大変有用です。

なぜ無料か?当番弁護士の運営者と報酬について

当番弁護士は、「無料で」弁護士が接見に来てくれるというものですが、なぜ弁護士が無料で動いてくれるのでしょうか?当番弁護士は、ボランティアなのでしょうか?

実際には、そうではありません。弁護士も商売で弁護士業をしているので、報酬はもらっています。それでは、誰が報酬を出しているのでしょうか?

当番弁護士を運営しているのは、各都道府県の弁護士会です。当番弁護士として接見に来てくれるのは、その弁護士会に所属する弁護士で、当番弁護士の登録をしている人です。

そして、当番弁護士が接見に行くと、各都道府県の弁護士会からその弁護士に報酬(接見の手数料)が支払われることになっています。高額でありませんが、まったくの無料というわけでもないので、多くの弁護士が当番弁護士として登録して、出動要請があれば指定された警察に接見に行く、というシステムになっています。

当番弁護士が来てくれるタイミング

実際に当番弁護士を呼ぶと、どのくらいのタイミングで接見に来てもらうことができるのでしょうか?24時間いつでも対応しているのか、気になるという方もおられるかも知れません。

当番弁護士については、弁護士会が登録している弁護士に出動要請をかけて、弁護士が接見に行く、という流れになっていますが、弁護士会は弁護士に出動要請をするとき「なるべくその日中に行くように」と依頼します。

そこで、弁護士としても、できるだけその日のうちに時間を作って警察に接見に行きます。ただし、遠隔地の警察署の場合や通訳人が必要なケースなどでは、すぐに接見に行けないので翌日などになるケースもあります。また、夜遅くなる場合や休日がある場合、遅れることもあります。

多くは「その日のうちに」来てくれることが多いので、弁護士と話をしたいのであれば、早めに出動要請をすると良いでしょう。

当番弁護士が無料でしてくれること

それでは、当番弁護士が来てくれたら、実際に何をしてくれるのでしょうか?

刑事手続の流れを説明

まずは、全般的な刑事手続の流れや予想される事態について、説明をしてくれます。

逮捕されると、「この後どうなるのか?いつまで拘束されるのか?」と心配になる方がとても多いものですが、弁護士が来たら、逮捕勾留期間や起訴の見込み、刑事裁判になった場合の刑罰の見込みなどについて具体的に説明を受けられるので、見通しが立って安心感を得られます。

必要なアドバイスをする

一般の方は、突然逮捕されてしまったとき、どのように対処したら良いかわからないことが多いです。警察の取り調べに対しても、納得できない場合に供述調書に署名押印を拒絶して良いのかどうかわからなかったり、誘導されたときに適当に応じても良いものか分からなかったりします。捜査官から脅されることもあるでしょう。そのようなとき、決して誘導や脅しに乗ってはいけませんし、納得できない供述調書にサインしてはいけないのですが、わからないまま応じてしまう方も多いです。

弁護士であれば、虚偽の自白の恐ろしさを被疑者に説明し、そういったことは絶対にしてはいけないこと、また、供述調書へのサインを拒絶する権利が認められていることなど、アドバイスすることができます。これを受けて、被疑者も適切に対応できるようになり、将来の不利益を避けることにつながります。

被疑者ノートの差し入れなど

被疑者の逮捕勾留中には捜査官による取り調べを受けることになりますが、このときの取り調べ状況を残しておくことが非常に重要です。強制的、無理な取り調べがあった場合などには、後に供述の任意性を争って、証拠排除することができる可能性などがあるからです。

取り調べが不当であったかどうかを後で証明することは、容易なことではありません。被疑者自身が日々の取り調べ状況を細かくつけておく必要があります。そのためのノートが、被疑者ノートです。当番弁護士が来たら、通常は被疑者ノートを差し入れるので、その後は被疑者ノートに取り調べを受けた時間や内容、気になったことなどを書き込んでいきましょう。

刑事弁護人の選任についての説明

当番弁護士が来たら、通常は「刑事弁護人についての説明」もしてくれます。

当番弁護士は「弁護人」ではありません。単に1回接見に来てくれただけの立場に過ぎず、被疑者の弁護人となって、被害者との示談交渉や検察官との交渉など、さまざまな弁護活動をしてくれるものではありません。

刑事弁護人を選任するには、どのようにしたら良いのでしょうか?

その方法を教えてくれるのが、当番弁護士です。刑事弁護人選任の方法については、以下の3通りがあります。

  • 当番弁護士に刑事弁護人になってもらう
  • 私選弁護人を選任する
  • 国選弁護人を選任する(ただし、一定の犯罪に限られ、資力要件がある)

ケースによって適切な方法を選択すべきなので、当番弁護士から聞いた内容などを参考にして、最適な方法で弁護人を選びましょう。

刑事事件で当番弁護士を呼ぶメリット

当番弁護士を呼ぶと、以下のようなさまざまなメリットがあります。

無料で弁護士と接見できる

まずは、無料で弁護士に来てもらえます。一般的に弁護士に何かを依頼したら費用がかかるものですが、当番弁護士に来てもらうときには、一切の費用がかかりません。交通費の負担もありません。

不利益を小さくすることができる

当番弁護士を呼ぶと、虚偽の自白をしてはいけないことなど、必要なアドバイスを受けられます。これにより、各場面で適切に行動できるようになるので、将来不利益を受ける可能性が小さくなります。

また、法律のプロである弁護士から直接アドバイスを受けたり励ましてもらったりすることにより、不安を解消して精神的にも落ち着きを取り戻すことができます。

弁護人として選任も可能

一般の方は、弁護士に知り合いがあることは少ないです。いきなり逮捕されても、誰に弁護を依頼して良いかわからないことが多いでしょう。

当番弁護士に来てもらったら、そのまま当番弁護士を私選弁護人として選任することもできるので、弁護士を探す必要がありません。当番弁護士を弁護人として選任できる点も、メリットの1つと言えます。

刑事事件で当番弁護士を呼ぶ方法

実際に当番弁護士を呼びたい場合、どのようにすれば良いのか、ご説明します。

逮捕勾留されている被疑者自身が呼ぶ方法と、家族が呼ぶ方法があり、それぞれ異なるので、以下でそれぞれについて見てみましょう。

被疑者が呼ぶ方法

まずは、被疑者自身が呼ぶ方法です。この場合には、留置所の管理をしている警察官に対し、当番弁護士を呼びたい旨申告すれば良いです。すると、留置管理係が弁護士会に連絡をして、当番弁護士の出動を要請します。警察から連絡を受けた弁護士会は、登録している弁護士からその日の担当弁護士に連絡をとり、当番弁護士としての出動を依頼して、その弁護士が接見に来ることになります。

家族が呼ぶ方法

家族が呼ぶときには、直接弁護士会に連絡を入れます。各都道府県の弁護士会には当番弁護士を呼ぶための専用ダイヤルがもうけられていることなどもあるので、ホームページをチェックしてみましょう。そういったダイヤルがない場合には、代表番号にかけると、当番弁護士の担当部署につないでもらえます。

弁護士会の担当者に概要を伝えると、弁護士会から担当弁護士に連絡を入れて、当番弁護士の出動要請をしてくれます。

当番弁護士に2回目以降も来てほしい場合

当番弁護士は、1回だけ弁護士に無料で接見に来てもらえる制度ですが、2回目以降も弁護士に来てほしいときにはどのようにすると良いのでしょうか?

当番弁護士は、1回だけの制度ですから、2回以上接見に来てもらうことはできません。2回目以降の接見を希望するならば、その弁護士を「刑事弁護人」として選任する必要があります。

刑事弁護人として選任する方法としては、国選弁護人として選任する方法と私選弁護人として選任する方法があります。国選弁護人とは、国が費用を負担してつけてくれる弁護人のことです。被疑者段階(起訴前の段階)で国選弁護人を選任できるのは、一定の重大犯罪のケースで、なおかつ被疑者に資力がないケースのみです。

私選弁護人は被疑者自身が費用を払って選任する弁護人であり、どのような犯罪でも利用することができますし、資力要件もありません。

当番弁護士の注意点

当番弁護士を利用するときには注意点があります。それは、当番弁護士は、どのような弁護士かがわからないことです。弁護士にはさまざまな取り扱い分野があるもので、すべての弁護士が「刑事事件」を得意としているわけではありません。当番弁護士に登録している人も、刑事事件に積極的に取り組んでいるとは限らないのです。当番弁護士などの活動は、いわゆる「公益活動(世のため人のためになる活動)」という位置づけなので、普段は刑事事件を取り扱っていない人でも登録しています。

一度だけの接見であればそのような弁護士でも対応可能ですが、継続的に弁護活動を依頼するのであれば、不安があります。当番弁護士を一度だけ呼ぶのは良いのですが、その後も私選弁護人として継続的に刑事弁護を依頼するのであれば、いったん立ち止まって相手がどのような弁護士か、よく考えてみた方が良いです。

当番弁護士以外の人を私選弁護人とする方法

それでは、当番弁護士以外の「刑事弁護が得意な弁護士」を弁護人として選任するには、どのようにしたら良いのでしょうか?

そのためには、家族などの外にいる人が情報収集をして「刑事弁護に強い弁護士」を探すことが有用です。逮捕されている本人は、パソコンもスマホも使えないので、必要な情報にアクセスできないからです。家族や知人、友人などに一度接見に来てもらい、その際に、良い弁護士を探してほしいと依頼しましょう。たとえば、当番弁護士を呼んで、当番弁護士に家族に連絡するように依頼して、家族を呼んでもらう、というのも1つの使い方です。

今は、多くの弁護士がホームページで事務所の特色を打ち出しているので、刑事弁護に積極的に取り組んでいる弁護士に相談に行ってもらい、一度留置所に接見に来てもらうと良いでしょう。

刑事事件で逮捕されたら、まずは無料の当番弁護士を呼ぼう!

逮捕された場合、まずは気持ちを落ち着けて、適切な対応をとる必要があります。そのためには、当番弁護士を呼んで、必要なアドバイスを受けましょう。

当番弁護士を気に入ったらそのまま私選弁護人として選任しても良いですし、家族に依頼して良い弁護士を探してもらうのも良いでしょう。刑事事件で受ける不利益を最小限度にするために、無料の当番弁護士を上手に活用しましょう。

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