刑事事件と警察官の関りとは?警察の組織や仕組みについて解説
- 2024年7月16日
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犯罪を取り締まる「警察」とは
刑事事件を起こしてしまった、あるいは罪が疑われた場合、最初に被疑者が関わりを持つのは、ほとんどのケースで「警察」となります。
政治家が絡む複雑な事件や、大企業の巨額贈収賄事件などでは、いきなり「地検特捜部」の検事が登場しますが、多くの一般人が刑事事件の被疑者として逮捕される時、最初に身柄を確保するのは「警察」です。
「警察」は日本の治安を守るための組織であり、刑法や条例といった法令に規定されている罪を犯した者を取り締まることが主な役目になります。
「警察」は絶大な権限を持つ?
「警察」は、刑事事件の捜査と被疑者の逮捕を行うために、国からさまざまな権限を与えられています。例えば、「強制捜査」を行う権利は、「警察」という捜査機関が、裁判所の裁判官から逮捕状、捜査令状あるいは押収令状などの発布を受け、被疑者の逮捕、家宅捜査、証拠の差し押さえなどが可能とされる権限です。
この「強制捜査」とは、「任意捜査」と対になる用語です。「任意捜査」とは、捜査の対象となる者から承諾を得てから行われるもので、人権侵害の危険性が乏しいと考えられているものです。
「任意捜査」の場合は、本人の承諾を得ない限り、所持品検査などは行ってはいけないとされており、「強制捜査」のために必要な令状なしで行われた強制的な捜査、いわゆる違法捜査による証拠は、裁判において証拠能力が否定されることがあります。
令状の重要性を知っておくことが大切
「強制捜査」を行う権限は非常に強力であるため、基本的には裁判所が捜査を許可する令状が必要になり、いくら警察でも令状無しにはガサ入れなどの捜査はできません。万が一、「警察」が自宅に踏み込もうとした場合、令状など何も持っていない時には「令状持って出直して来い」といっても問題はないわけです。
とはいえ、最近の「警察」が令状もなしに、被疑者の家に踏み込むといったドラマのような事をすることは、まずないと考えて良いでしょう。被疑者の家のドアを開けると同時に捜査令状を突き付けて、「強制捜査を行います!」と宣言するはずです。
自分の身に覚えがあってもなくても、「強制捜査」を拒むことはできないので、観念して捜査を受けるべきでしょう。ただし、「警察」が捜査を始めてからの手順や状況については、後に違法捜査を主張することがある可能性がありますので、きっちりと覚えて、可能ならば記録しておくことをお勧めします。
「警察」を規定する法律は「警察法」や「刑事訴訟法」
「警察」の組織や役割は、「警察法」に定められています。
「警察法」の第1条と第2条を見れば、「警察」による活動の目的は理解できます。
警察法
(この法律の目的)
第一条 この法律は、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持するため、民主的理念を基調とする警察の管理と運営を保障し、且つ、能率的にその任務を遂行するに足る警察の組織を定めることを目的とする。
(警察の責務)
第二条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない。
「警察」の役割は、犯罪者の逮捕だけではない
上記の「警察法」第2条に定められている通り、「警察」の役割は犯罪者を逮捕するだけではありません。行政警察活動と言われる犯罪の予防や、国民の生命や身体および財産の保護、そして司法警察活動と呼ばれる、既に発生した犯罪の捜査や犯人逮捕などの活動が警察の責務と定められています。
また騒乱や内乱を未然に防ぐ、あるいは鎮圧することは公安警察活動と言われ、広い意味での警察活動に含まれます。交通事故などを防ぐための交通整理や指導は、行政警察活動にあたり、捜査令状を持って犯人逮捕を行うのは司法警察活動となるのです。
「刑事訴訟法」にも「警察」の規定がある
「警察法」に加え、刑事事件における司法手続きを定めている「刑事訴訟法」にも、「警察」が行う手続きの規定がありますが、ここでは「警察」が「司法警察職員」と呼ばれていることが特徴的です。
刑事訴訟法
第百八十九条 警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより、司法警察職員として職務を行う。
2 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
以上のように、「警察」の「警察官」は刑事事件の中心的な捜査の役割を担い、ほとんどの事件の一次的な捜査を行い、検察官に事件を送致するものとされています。
加えて、「警察」は被疑者や被告人の身柄を収容する留置場などの施設を備えているため、逮捕された後も検察に送られるまで、あるいは裁判の結果が出るまでは、一般的な言葉で言えば「警察」のお世話になることになります。
「警察」の組織について
一般的な生活をしていると「警察」、「警視庁」、「警察庁」、「公安委員会」など、テレビドラマや映画で見聞きする「警察」関係の名称について、上手に関係性を説明できる人はあまりいないと思われます。
ここで、「警察」関係の組織についてまとめておきましょう。
「警察官」は公務員
「警察官」は「警察」という組織に属する公務員です。日本の「警察」組織は、内閣府の外局にあたる「国家公安委員会」に置かれる警察庁に属していて、現場の責任は各地方の自治体にあります。
簡単に言うと、「国家公安委員会」が所轄する「警察」組織は、「警察庁」がトップにあり、その下に「警視庁」と各道府県警があるのです。東京都だけは「東京都警」ではなく、「警視庁」と呼ばれることが特徴的です。
これは明治時代に、現在の「警察」組織が初めて設置されたのが東京で、当時国家機関として「警視庁」と呼ばれていたものが継承されているものです。つまり「警視庁」は、全国に「警察」組織が設置されることで、地方の「警察」機構と同じレベルに格下げされたとも言えるのです。
そのため、東京都以外の各道府県警を統べる「警察庁」と「警視庁」は仲があまり良くない時代もあったようで、ドラマのネタにもなっていましたが、刑事手続きの現場とは直接関係のない話ですし、そのために県境をまたぐ捜査に支障が出るようなことがあってはならないでしょう。
「警察」の階級について
刑事ドラマや推理小説が好きな方であれば、「警察」が階級社会だということはご存知だと思います。階級の争いが捜査に影響を与えるというような題材もありますが、実際にはそのようなことが起こらないことを願うのみです。
「警察」には、役職と階級があります。役職とは、警察署と呼ばれる各道府県の警察、また県警本部、警視庁、警察庁によって位は違いますが、
- 係
- 主任
- 係長
- 課長(補佐)
- 署長(副署長)
- 部長
- 本部長
- 管理官
- 参事官
- 理事官
- 審議官
…、と誰がどこの警察署でどれくらい偉いのか想像できないほどの数があります。
しかし「警察」の階級は、すべての所属によって一定であり、その署にいるかいないかはありますが、権限も定まっており、共通認識が持てる職位と言えるでしょう。
それは「巡査」から始まり、「巡査長」、「巡査部長」、「警部補」、「警部」、「警視」、「警視正」、「警視長」、「警視監」、最高位は「警視総監」と続きます。
この階級を上げるために警察官は昇任試験を受けて合格する必要があり、上下関係は非常に厳しいものとされています。刑事事件の被疑者となってしまった場合に備え、刑事手続きに関係することをひとつ覚えておきましょう。
階級によって権限が制限されている
本記事冒頭で説明した「強制捜査」の権限はすべての警察官に与えられているわけではありません。刑事訴訟法において、警察官は「司法警察員」と「司法巡査」に分けられています。階級としては、「巡査部長」以上の警察官が「司法警察員」となり、「巡査」や「巡査長」は「司法巡査」として、捜査権限に制約があるのです。
具体的に見ると、「司法巡査」は「裁判所に令状を請求できない」、「直接被疑者を取調べして調書を作れない」、「被疑者を送致できない」などの制約があります。しかしこれらの警察官も、捜査上の必要がある場合は「司法警察員」として指名することも可能だとされています。
この規定は各都道府県の公安委員会によって定められていて、たいてい「巡査部長」以上が「司法警察員」となっていますが、刑事事件における刑事手続きすべてが許されているわけではなく、内部的には裁判所へ逮捕状を請求できる権限があるのは「警部」以上の階級が必要になるとされています。
逮捕された時に、知識があれば可能な対応策
被疑者として逮捕される側からすると、あまり関係のない話になりますが、自分の取調べを行っている警察官の階級が「巡査」であった場合には、その調書に証拠能力がないと主張することが可能になります。
万が一、刑事事件の被疑者として逮捕されてしまい、容疑内容や捜査方法に受け入れがたいものがあって、警察と戦うと決意したならば、「あなたは司法警察員ではないのですか?」といった指摘をすることが可能となります。
決して取調べに応じないことが最善とは言い切れないのですが、弁護士を雇う旨を告げ、弁護士と面会し、対応策をアドバイスしてもらってから取調べに応じることも、手続きを有利に進めるための効果的な手段となります。
「警察」は被疑者を捕まえるだけ
以上のように、刑事事件における「警察」の仕事は、被疑者を逮捕し、検察に送検するまでに限られています。本来、刑事事件の捜査をするのは「検察」の仕事で、刑事ドラマでは熱くなった警察官が被疑者に向かって「刑務所にブチ込んでやる!」と叫ぶことがありますが、警察官には本来そうした権限はありません。
起訴して裁判にかけるかどうかを判断するのは「検察」の検事の仕事で、刑務所に入れるかどうかを決めるのは「裁判官」になります。現場の警察官に犯人を裁く権限まで与えることは、事件の捏造などにより、無実の人を処罰してしまう冤罪事件の発生につながる可能性が高くなるため、近代司法では刑事事件の犯人を裁くのは、独立した複数の組織に分けているのです。
「警察」の仕事は、犯人と疑われる者(被疑者)を特定し、事件を「検察」に送検するまでで、本格的な捜査は「検察」の検事が行うことになっています。しかし実際の現場は、「検察」の検事の人数に比べて刑事事件の数が多過ぎるため、送検された後も取調べなどの実務を行うのは「警察」といったケースが往々にしてあるようです。
建前上では「検察」の指揮で捜査が進められることになっていても、本当に捜査の実権を握っているのは「警察」というケースも、地域によってはあると言われています。被疑者の立場からすれば検察の人数が足りないなどの事情は関係ありませんので、権限のない「巡査」が取調べを始めようとすれば、拒否することもできます。
弁護士に相談し、きっちりと対応策を練り、取調べに臨むことが得策です。
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