在宅捜査とは?逮捕による身柄拘束は必ずしも必要ではない
- 2024年7月16日
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逮捕による身柄拘束は必ずしも必要ではない!
刑事事件の被疑者となってしまっても、必ずしも逮捕され、勾留を受けて身柄が拘束されるとは限りません。
まずは、逮捕を規定する憲法第33条および刑事訴訟法第199条を確認してみましょう。
刑事訴訟法
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
○3 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。
逮捕とは、捜査当局が被疑者の身柄を拘束して刑事事件の捜査を行うという強制処分ですが、移動の権利を奪うという意味合いがあります。
以上の法令では、逮捕の必要がない場合は逮捕を行ってはならないとされ、原則としては逮捕状が必要とされるなど、さまざまな要件が必要とされているのです。
逮捕の要件とは?
逮捕には、裁判官が発付する令状をもって行われる通常逮捕と、現に犯罪を行っている、あるいは犯罪を行ったばかりなど、人違いなどのおそれがないと考えられる人を逮捕状なしで逮捕する現行犯逮捕があります。通常逮捕には、捜査機関がまず被疑者を逮捕して後に緊急逮捕状を請求する緊急逮捕もありますが、これは逮捕の前か後かの問題で、逮捕状をもって行われる通常逮捕の一種です。
通常逮捕の要件、言い換えれば逮捕されないケースの規定は3つあります。まず上記の刑事訴訟法第199条第1項に「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」とあるように逮捕の理由があることです。そして同条第2項には「明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない」とされており、詳細は刑事訴訟規則第143条の3に次のように定められています。
刑事訴訟規則第143条の3
(明らかに逮捕の必要がない場合)
第百四十三条の三 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。
要するに、被疑者に逃亡と証拠隠滅のおそれがない場合には、逮捕の必要はないと裁判所は判断し、検察による逮捕状の請求を却下しなければならないのです。
そして3つめは、上記刑事訴訟法第199条にあるように、法定刑が30万円以下の罰金、拘留、過料のいずれかとされる罪で、住所がはっきりしており、捜査機関の出頭要求に応じている場合には、逮捕されないということです。
それでも逮捕を行う警察と検察
以上のように、刑事事件の被疑者とされても、逮捕されるためには複数の要件を満たしている必要があります。しかし一般的には、逃亡はしないし隠滅されるような証拠がないと訴えても、裁判所は逮捕状を交付し、逮捕が執行されてしまうのが現実です。
被疑者自身が捜査を行っている警察や検察に対して、「逮捕の必要はないはず!」と訴えても聞き入れてもらえないでしょう。嘘をついて犯人を逃亡させてしまったり、大切な証拠を消してしまったり、ともすれば被害者に会いに行く可能性もあるため、安易に逮捕しないで捜査をするという選択は難しいと思われますが、被疑者にとってはたとえ数日間でも社会生活から突然隔離されるという事態は避けたいものです。
弁護士と十分に相談し、次に説明するような「在宅捜査」への切り替えや、「勾留取消」などの措置を行ってもらえるように努力するのも一手です。被疑者自身で手続きを行うことも可能ですが、法律の専門家以外では非常に困難な作業となり、勾留期間の満期がすぐに来てしまうことでしょう。
身柄の拘束を伴わない「在宅捜査」とは?
刑事事件を起こしてしまうと、一般的には警察により被疑者は逮捕されてしまいますが、先に述べたように、刑事事件の手続きを進めるうえで被疑者の逮捕というのは絶対に行わなければならない手続きではありません。
被疑者の身柄を拘束しないままの状態で、刑事事件の手続きを進めることは可能で、「在宅捜査」と呼ばれる方法もそのひとつです。著名人の事件を報じるニュースではよく、「警察は、○○被疑者を在宅のまま『書類送検』しました」などと報じられることがありますが、刑事事件の被疑者を逮捕しないで捜査を続け、そのまま事件を検察に送るという方法が普通に行われているのです。
マスコミを含めた世間一般の常識からいえば、犯罪を起こしたと思われる人は警察に逮捕された後に勾留され、身柄を拘束されて捜査されるものだと思い込まれていますから、最初から「在宅捜査」が行われる事件というのは、政治家や大企業の経営者、芸能人あるいはその家族など有名すぎて逃亡などできない人たちだと言うのです。
本当に「在宅捜査」が行われるのは著名人だけで、一般人のケースはあまりないのでしょうか?
一般人でも在宅捜査となるケースは多い
実は、一般人でも身柄を拘束されずに「在宅捜査」で手続きが行われる被疑者は多いのです。平成28年度の犯罪白書によると、警察などに被疑者が逮捕され身柄付きで送検された事件の割合(身柄率)は全被疑者数の35.5%に過ぎません。
ほとんどのケースが前述の比較的軽微な事件に相当するものですが、逮捕後の勾留請求率は92.7%で、勾留請求却下率も2.6%と、すべてが逮捕から勾留へとオートマチックに進むわけではないと理解しておきましょう。
この勾留請求却下率は年々上昇傾向にあり、かつて裁判所は自動令状発行機と揶揄されるほど検察の言いなりであったものが、被疑者の人権を守ろうという社会の流れを汲んで、少しは変化が表れているようです。
逮捕・勾留を在宅捜査へ持ちこむには、弁護士の力が必要
ただし一般人の場合、微罪以外の刑事事件の被疑者とされてしまうと、多くの場合は警察に逮捕されてしまうのが実情です。そのまま警察や検察の言いなりになっていると、3週間以上も留置場や拘置所に身柄を拘束された挙句、起訴されてしまうと今度は2カ月近く拘置所に入れられて、自由を奪われたままの日々が続いてしまうことになります。
その上裁判において実刑の有罪判決になってしまった場合、刑期を終えるまで自宅に戻れないことになってしまうのです。しかし腕の立つ弁護士と契約し手続きを進めてもらえば、最初の逮捕や勾留の段階で「在宅捜査」となり、自宅に戻ることは不可能ではありません。
本来、逮捕や勾留で被疑者の身柄を拘束するのは、司法の捜査の手を逃れて逃亡したり、証拠隠滅を図ったりすることを防ぐのが目的です。逃亡・証拠隠滅のおそれはないと弁護士を通じて主張することができれば、逮捕あるいは勾留で身柄を拘束されることなく「在宅捜査」となる可能性が出てきます。
ただし、「在宅捜査」となれば勾留期限のような日数の制限はなくなり、延々と刑事事件の捜査は続けられるため、その辺のさじ加減も弁護士とよく相談して対応を取るようにするのが得策です。
勾留決定を覆すには?
刑事事件の手続きを「在宅捜査」で進める理由は、たいていの場合は被疑者が有名すぎて逃亡や証拠隠滅などできないだろうという警察や検察の判断によるものです。しかし一般人でも、事件以前にきちんとした社会生活を送っているのであれば、よほど重罪を犯していない限り、それまでの生活を全て放り出して逃亡を図る者はいないと考えられます。
また事件によっては隠滅するべき証拠などないケースもありますし、警察や検察が被疑者を何でもかんでも逮捕や勾留をするのは正当性に欠けているのです。そのような警察や検察の無茶を抑えるために、不当な身柄拘束に対して異議を唱え、身柄の釈放を可能とする手続きもいくつかあります。
被疑者・被告人の勾留決定を取り消す方法
被疑者、あるいは被告人の勾留決定を取り消す方法には、
- 勾留理由開示請求
- 勾留決定に対する準抗告
- 勾留取消請求
といったものがあります。
詳細については本コラムの別ページをご参照いただければと思いますが、以下に簡単に説明しておきます。
勾留理由開示請求とは、被疑者や被告人が勾留されてしまった時、弁護人や法定代理人などが、裁判官がいかなる理由で被疑者の勾留を許したのかを、裁判所に法廷で明らかにさせるものです。勾留決定に対する準抗告とは、勾留の必要性や相当性がないのに勾留が決定されてしまったことに対して、裁判所に勾留の取り消しを求めるものです。
そして勾留取消請求とは、勾留の理由がなくなったとして、勾留の取り消しを裁判所に請求するものです。
早期の身柄解放には、有能な弁護士への依頼が重要
以上の手続きは、いずれも被疑者本人か担当の弁護人などが請求できるのですが、被疑者本人には法知識が不足しているのが普通ですので、弁護人に任せた方がいいでしょう。ただし弁護士によれば、勾留の取り消しに関して消極的な者が多いとされています。
勾留を取り消して社会に戻るよりは、より刑期を短くすることなどの減刑に力を注ぐべきだという考えは分からないでもありません。しかし社会生活に一刻でも早く戻りたいと考える人もいます。被疑者または被告人の心情を理解し、親身になって動いてくれる有能な弁護士を探し、手続きを進めてもらいましょう。
一方で気を付けなければならないのは、弁護士にとって被疑者や被告人の身柄解放も仕事のうちですが、場合によっては勾留取消の手続きが別料金になることもありますので、十分に打ち合わせをして臨むべきです。
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