盗撮の余罪で立件・再逮捕はあり得る?

余罪を追求されている犯罪者

盗撮行為の余罪が捜査機関に露見する流れ

盗撮で逮捕される場合、その多くは現行犯逮捕によるものです。この場合の被疑事実は現行犯逮捕されたその場における盗撮行為に限られます。ただ、中には過去にも盗撮行為を繰り返しており、しかしその過去の盗撮行為は未だ捜査機関に露見していなかったというケースもあるでしょう。

このような場合、どこまで過去の盗撮行為についての捜査がされるのか気になるところです。そこで、今回は盗撮の余罪捜査について説明しますが、まずは過去の盗撮行為は、どのようなきっかけで捜査機関に露見することになるかについて解説します。

盗撮で逮捕された場合、捜査機関は被疑事実を証明するための証拠を集める作業に入ります。被疑者に対する取調べから供述証拠を獲得する作業ももちろんその一つです。ただ、余罪発覚との関係で重要なのは、証拠物に対する捜査です。

私服警察官に現行犯逮捕された事例

たとえば、電車内においてスマートフォンのカメラで女性のスカート内部を盗撮していたところ、これをマークしていた私服警察官に現行犯逮捕された事例を想定してみましょう。

逮捕現場には、被疑事実に関する証拠が多く存在することから犯人を間違える可能性は低く、捜査機関は令状なしで証拠物の捜索・差押えをすることが許されています。まさに犯行に直結する証拠物であるスマホは捜査機関に押収され、内部データが詳細に分析されることになります。

さらに、被疑事実に対する認否、犯行態様の常習性等を伺わせる事情などを考慮した結果、捜査機関が被疑者自宅などの関係各所に対して捜索差押えをすることも考えられます。盗撮に使用したスマートフォンだけではなく、被疑者が普段使用しているパソコンやデジタルカメラなど、盗撮事件に関連性が認められる限りのあらゆる物が押収され、捜査対象とされる可能性があります。

このような経緯でスマホなどの証拠物を獲得した捜査機関は、内部データとして保存されている過去の盗撮データを取得することになります。ここから、被疑者が過去に犯した盗撮行為が捜査機関に知れることになります。

過去の盗撮行為は余罪として立件されるのか

過去の盗撮行為が捜査機関に知られてしまった場合に、その犯罪行為はどのように扱われるのでしょうか?

盗撮行為の余罪とは?

まずは盗撮の余罪とはどのようなものかを確認する必要があります。そもそも余罪とは、被疑事実とは異なる犯罪事実のことを言います。逮捕・勾留の根拠とされている被疑事実以外は、全て余罪として扱われます。

たとえば、駅のエスカレーター利用時に女性Aのスカート内をスマホで盗撮。その後、乗車し、電車内において女性Bに対しても盗撮行為を行い、その場において現行犯逮捕されたケースを考えてみましょう。

現行犯逮捕された根拠となった被疑事実はあくまでも女性Bに対する盗撮行為です。ここでは女性Aに対する盗撮行為は考慮されていません。しかし、女性Aに対する盗撮行為もまた、迷惑防止条例違反として犯罪を構成するものです。したがって、女性Aに対する盗撮行為が、ここでは余罪としての扱いを受けることになります。

余罪が別罪として立件されないケース

現に逮捕・勾留の根拠となっている被疑事実とは異なるとは言っても、余罪とされる被疑事実もあくまでも犯罪です。この被疑事実についても逮捕・勾留というプロセスに進む可能性を否定することはできません。しかし、現実的には別罪として立件されないケースも多数あります。その理由は以下の2点です。

1つ目は、逮捕・勾留手続には非常に手間がかかるということです。捜査をするにも時間・人員のコストがかかります。例えば、過去の盗撮画像が数百枚、しかも盗撮行為の対象が1人ではなく期間も数か月に及ぶものであったケースを考えてみましょう。

本来であれば、数百件の盗撮行為が余罪として扱われるはずです。しかし、それぞれについて被害者を特定し、有罪判決を獲得できるほどの証拠を固めていくにはあまりに時間と手間がかかり過ぎます。

2つ目は、今回逮捕された被疑事実が極めて悪質な行為の延長でなされたという材料として利用して、情状や量刑判断に影響を及ぼす要因として活用すれば足りるということです。一般的に盗撮は、迷惑防止条例違反であれ軽犯罪法違反であれ、比較的軽微な犯罪として周知されているものです。

初犯であれば、示談の進捗状況や反省具合によって不起訴処分を獲得できる類の犯罪でもあります。しかし他方で、悪質性が高い盗撮事案の場合では、その行為態様の悪質性を量刑等に取り込むことが可能となります。

以上の理由から、余罪が多数ある事例であっても、別罪として立件されない可能性も十分あります。

余罪が別罪として立件されるかどうかは捜査機関の判断次第

先程説明したように、余罪が独立の犯罪として立件されないケースも多々あります。しかし、これはあくまでも捜査機関の判断次第ですので、常に別件逮捕の可能性がないというわけではありません。特に、余罪が被疑事実とは全く別の行為態様で遂行されていたような場合だと、別件として逮捕される可能性があります。

たとえば、電車内でスマホを利用した盗撮行為で現行犯逮捕されたケースで、自宅内のPCに捜査の手が及んだ結果、どこかの建物内の女性トイレ内の録画データが発見されたという場合について考えてみましょう。まず、両者の行為態様が全く異なります。被疑事実は電車内でのスマホによる盗撮行為、余罪に関する被疑事実は、ビル内女性トイレに侵入、盗撮機器を設置した上での録画行為です。

また、いずれも迷惑防止条例違反は共通していますが、余罪についてはさらに建造物等侵入罪にも抵触することになります。このような事例だと、逮捕された事実との乖離が大きく、かつ、悪質性も極めて高いことから、別件逮捕されても仕方ないでしょう。

このように、余罪の盗撮行為が悪質であったり、社会的に悪影響を及ぼす可能性が極めて高いと判断されるような事情が認められたりすると、捜査機関が別罪として扱うべきだという判断に傾く可能性は高まります。

盗撮行為の余罪についての注意点

過去の余罪がある場合、自分自身はどのように対処すべきか悩まれる方もいらっしゃるでしょう。ここでは、盗撮の余罪がある場合の対処について説明します。

自白はすべき?

まず、ある盗撮事件で逮捕された際に、過去の別件について自白するパターンが考えられます。取調べの際、必ず過去に盗撮行為をしたことがあるのかを追求されます。自ら余罪を認めて反省を示すという態度が、量刑や起訴判断の際に好材料として捉えられる可能性があります。

ただし、盗撮の余罪があまりに多かったり、余罪が、逮捕の基礎となった被疑事実に比べて極めて悪質であったりする場合だと、逆に自らの立場を悪くしてしまう可能性も否めません。

証拠隠滅はすべき?

逮捕されそうになった際に、盗撮行為に使用したスマートフォンを破壊したり、盗撮のデータを削除したりするケースもあるでしょう。もちろん、自らの犯罪に関する証拠を隠滅したとしても、それが証拠隠滅罪として処罰されることはありません。

しかし、解析技術が進んでいますので、削除データは簡単に復旧することができます。すると、結局捜査機関に余罪が判明することになってしまいます。証拠を隠滅したという行為がマイナスに評価されて、処遇に悪影響を与えるだけですので、証拠隠滅はすべきとはいえないでしょう。

盗撮行為の余罪は立件される前に弁護士に相談!

盗撮の余罪の扱われ方は、前科がつくのか、執行猶予を獲得できるのか、罰金刑になるのかなど、多方面で被疑者の処遇に影響を及ぼすものです。

捜査機関に盗撮の余罪が知られることはないかもしれませんが、知られてしまったときのリスクを考えると、先に自白した方が有利かもしれなません。しかし余罪が知られることはないのに、余計なことを自白すると、自分の首を絞めるだけになってしまいます。

このように、余罪についての対処は複雑で、自分だけで考え、対処を決めることは難しいです。捜査機関に露見していない余罪がある場合には、まずは弁護士に素直にその事実を告げるようにしましょう。弁護士には守秘義務がありますので、弁護士に余罪を話したことで、捜査機関に盗撮の余罪が伝わることはありません。

盗撮事件に強い弁護士であれば、リアルタイムな捜査状況を考慮して、余罪に対する向き合い方を適切に助言してくれるはずです。どのような供述をすべきかなど、細かい事情にも十分に対応してくれます。盗撮行為の余罪がある場合には、一人で悩まず、余罪が露見する前に弁護士に相談することをおすすめします。

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