警察から厳重注意!極めて軽微な犯罪の刑事手続き「微罪処分」とは?
- 2024年7月16日
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- 10分でわかる刑事手続き
- 刑事事件弁護士相談広場
刑事事件の被疑者は、警察に逮捕され、検察に送致後に起訴されるという流れになります。しかし軽微な犯罪の場合、再犯でないことや被害者に立件の意思がない、などという条件下で、警察による訓戒などに処分がとどまる「微罪処分」の刑事手続きが取られます。
軽微な犯罪の「微罪処分」の刑事事件手続き
罪を犯して警察に逮捕されたとしても、交番や警察署で警察官に説教されるだけで、そのまま釈放されることがあります。
注意を受けるだけで帰されるわけですから、「軽い罪だから許してもらった」あるいは「これくらいの行動なら罪にならない」と誤解している人がいるかもしれませんが、警察に逮捕された限りは、立派な刑事事件であり、被疑者として逮捕されているのです。
罪を犯して交番や警察署に連行され、注意を受けただけで帰されるような処分を、刑事手続き上では「微罪処分」と呼ばれるもので、れっきとした犯罪なのだということを理解しておきましょう。
同じ軽微な犯罪でも、繰り返したり反省していないと警察官に判断されたりすれば、きっちりと勾留されたうえで検察に送致されてしまいます。
「微罪処分」とはどういうものなのか、説明していきます。
「微罪」ってどこまでが「微罪」?
実は、「微罪」となる犯罪はここまで、といった基準はありません。
あくまでも警察の段階で、特に処罰が必要だと判断しなかった場合に取られる手続きが「微罪処分」なのであって、万引きの場合はいくら以上だとか、無銭飲食(詐欺)の場合はいくら以上だとかという基準はないのです。この基準は検察が決めているとも言われていますが、公表されていませんので、一般人は知る由がありません。
しかし一般的に「微罪処分」の手続きが取られている犯罪としては、万引きなどの窃盗、無銭飲食などの詐欺、占有離脱物横領、暴行、賭博などが挙げられます。これらは立派な犯罪で、本来ならば検察に送致されるべきなのですが、事件を担当した警察官の裁量によって、犯人に厳重注意などの訓戒や書類手続きのみで釈放するものが「微罪処分」なのです。
「微罪処分」を行う理由は、検察や裁判所が回らないから?
軽微な犯罪に対して「微罪処分」という刑事手続きが認められている理由として、すべての刑事事件を検察に送致して起訴していたら、検察や裁判所がさばききれずにパンクしてしまうから、ということが言われているようです。
日本における刑事事件は減少傾向にありますが、それでも全国で1日あたり2,700件ほどの刑法犯認知件数(自動車運転による業務上過失致死傷と危険運転致死傷を除外)があり、すべての容疑者を留置や勾留する必要があるならば、捜査施設があふれてしまうでしょう。そのため、「微罪処分」が許されているのは検察や裁判所が回らないから、という見方も否定はできません。
しかし警察や検察の予算にも限りがあり、捜査のマンパワーや資源を他の重大事件に振り向けたいという理由の方が大きいのではないでしょうか。いくら軽微な犯罪とはいえ、それを繰り返したり、反省の念が感じられなかったりする場合には、より大きな罪を犯してしまう前に、きっちりと逮捕され送検されてしまいます。
「微罪処分」の法的根拠
どんなに軽微であったとしても、犯罪は犯罪です。
法律と治安や秩序を守るだけが警察の仕事であれば、立小便を発見しただけで、軽犯罪法違反として即座に現行犯逮捕し、被疑者を検察に送検するのが筋でしょう。
ところが、「微罪犯罪」については、刑事訴訟法第246条の但し書きの解釈によって、一般的な刑事手続きを行わなくてもよいとされています。
刑事訴訟法
第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
この条文の「但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。」という部分を解釈し、検察官が定めたものについては、検察に送致しなくてもよいとされるのです。
前述の通り、何が「微罪」に相当するのかは検察が決めているのですが、明らかにはされていませんので、前例から類推するしかありません。
公安が定める「犯罪捜査規範」に基づき判断される
刑事事件の手続き「微罪処分」で終わらせるかどうかは、事件を担当した警察官の裁量もありますが、「微罪処分」を適用してよいとされる基準が、実は定められています。
警察のトップは警察庁ですが、その警察庁を管理しているのは国家公安委員会です。
その国家公安委員会により、日本の警察官が犯罪捜査を行う際に守るべき心がまえや捜査の手法、手続きが定められた「犯罪捜査規範」の第198条から200条に、「微罪処分」を行ってもよいとされる基準が定められています。
犯罪捜査規範
(微罪処分ができる場合)
第百九十八条 捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。
(微罪処分の報告)
第百九十九条 前条の規定により送致しない事件については、その処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を一月ごとに一括して、微罪処分事件報告書(別記様式第十九号)により検察官に報告しなければならない。
(微罪処分の際の処置)
第二百条 第百九十八条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。
一 被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
二 親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
三 被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。
それぞれの条文を詳しく説明すると、第198条の(「微罪処分」ができる場合)において、犯罪が極めて軽微であって、検察官に送致手続きを取らなくてもよいと定められた事件であることが条件だということです。
「微罪処分」とは警察官が罪を許してくれるということでもありませんし、警察官にいくらお願いしてもこの基準にあてはまらない刑事事件については、送検されてしまうのです。
第199条の(「微罪処分」の報告)には、少し重要な点が定められています。
それは、「微罪処分」を行った事件に関して、警察官はその処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を、ひと月ごとに一括して「微罪処分」事件報告書で検察官に報告するということです。
検察に被疑者の身柄は送致されませんが、事件の事実は検察に報告されているのです。そのため、裁判が行われないために被疑者に前科はつきませんが、前歴は残されます。
軽微な犯罪とはいえ何回も繰り返すようであれば、当然ながら被疑者の身柄は拘束され、検察に送致されて起訴へという流れになるため、後の行動に気をつけておきましょう。
第200条には、「微罪処分」の手続きの方法が記されています。
警察官からきつく叱られて、とよく表現されますが、これは厳重に訓戒を加えて将来を戒めることに該当します。
また、親権者や雇用主、あるいは監督する立場にある者などが呼び出され注意が与えられますし、被害があった場合はその回復に努め、謝罪なども行うように諭されることになります。
以上の法律や規定を簡単に表現すると、「微罪処分」で済まされるのは、軽微な犯罪であり、初犯で十分に反省していて、犯罪による被害が軽微であることが条件となります。
万引きなど被害者がいる事件では、被害が弁済されるなどによって被害者の処罰意識がなくなることも重要な点です。
住所がきちんと定まっていて、家族や雇用主などがいるということも条件となる場合もあるようです。
つまり、普段は善良な一般市民が、出来心で犯してしまった犯罪で、被害が非常に小さく、被害者も被疑者に対して刑事罰を与えることを望んでいない場合に、「微罪処分」が適用されることになるのです。
「微罪処分」で済まない刑事事件
ここまで「軽微な犯罪」と表現してきましたが、どこまでが「軽微な刑事事件」と判断されるのでしょうか?
問題は事件による被害の大きさですが、どこまでが軽微であるのかといった明確な基準は明らかになっていませんし、被害金額の小ささだけで判断されるわけではありません。
ただ、万引きなどの窃盗事件の場合は、被害金額が2万円以下だという見方をする向きもあるようですが、初犯であるにも関わらず、それに満たない被害金額で逮捕された送検された例もあり、明確な基準を推測するのは難しいというのが現状です。
実際にもし、「微罪処分」を決める具体的な金額水準が明らかになっていたら、「これくらいなら大丈夫!」と犯罪に走る者もいるかもしれませんので、あえて基準を明確にしていないのかもしれません。
年々処分が厳しくなり、「微罪処分」は減少?
年々警察による取り締まりは厳しくなり、「微罪処分」の刑事手続きは減っていると言われています。
しかし平成28年版犯罪白書によると、平成27年に「微罪処分」の手続きを受けた者は7万1,505人(刑法犯では7万1,496人、全検挙人員に占める比率は29.9%)であり、それほど少なくなったという結果は出ていません。
一方で、自動車事故などで被害者が被疑者を訴える傾向は強くなっており、「微罪処分」の条件である被害者が立件を望まない、という部分が薄れてきている可能性はあります。
刑法改正や、時代背景も大きく影響
さらに、昔は「微罪処分」で済まされていた犯罪も、最近は刑法改正もあり厳しく罰せられる傾向にあります。
痴漢事件はその一例で、かつては軽い痴漢であれば「微罪処分」で処理されていました。
しかし「痴漢は犯罪」という意識が一般に強くなってからは、被害者も勇気を出して事件を訴えるようになり、現在では「微罪処分」で済まされることはないでしょう。
また窃盗である万引きに関しても、店の方針でチョコ1個でも、乾電池1パックでも窃盗事件とするということで、捕まえればすぐに警察に通報されそのまま逮捕されてしまう傾向にあります。
つい出来心で、といって平謝りしても「微罪処分」で済むというケースは、だんだん少なくなってきています。
「微罪処分」という言葉を知っていたとしても、警察に捕まった際にそのことを声高に叫ぶのは、反省の意思なしと見られる可能性が高いので、避けるべきでしょう。
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